INDEX 
15年を経たMRI造影剤
医療の現況とシエーリングのビジネス戦略
MRI造影剤開発の足跡
画像診断はどのような発展を遂げたか
MRI造影剤のマーケットシェア

 国際造影MRIシンポジウム記者発表会 発表者
ホセ・E・マルティーノ アルバ
日本シエーリング株式会社 社長
ギュンター・ストック
シエーリングAG 代表取締役 研究開発担当責任者
ハンス-ピーター・ニンドルフ
シエーリングAG 診断薬・放射性医薬品 臨床開発部門長
平敷淳子
埼玉医科大学 放射線医学教室 教授
日本磁気共鳴医学会 副会長
渡辺修次
日本シエーリング株式会社 取締役
診断薬・放射性医薬品ビジネスユニット ジェネラルマネージャー



■15年を経たMRI造影剤
 わが国では、年間580万例ものMRI検査が行われ、そのうち130万例で造影剤が使用されていると推定される。日本シエーリングが、世界初のMRI用造影剤“マグネビスト”(ガドペンテト酸ジメグルミン)を市場に導入したのが1988年。以来15年間、世界で4,500万以上の症例に本剤が使用されてきた。このマグネビスト誕生15周年を記念して、去る2003年 4 月 5 日、帝国ホテル・東京にて、国内外の専門家およびシエーリング社の研究者による「国際造影MRIシンポジウム」が開催された。

 第一部では、シエーリングAG(本社:ドイツ、ベルリン市)から造影剤の研究・開発について、第二部では国内外の先生方より造影MRIの最新動向、第三部ではエッセン大学のDebatin氏による画像診断全般の現状と将来展望についての講演が行われた(詳しい内容については、2003年 8 月末発行の「日獨医報第48巻臨時増刊号−国際造影MRIシンポジウム−」に掲載予定)。
 シンポジウムに先立ち、シエーリングAGの研究・開発のトップであるギュンター・ストック代表取締役、埼玉医科大学教授・日本磁気共鳴医学会副会長の平敷淳子先生らによるプレスカンファレンスが行われた。以下に、その模様をレポートする。

 まず、日本シエーリング株式会社マルティーノ社長から「本年は、日本シエーリングにとって 2 つの有意義なイベント−1 つは世界初のMRI造影剤“マグネビスト”の発売15周年であり、もう 1 つは肝特異性MRI造影剤“リゾビスト”の実質的な発売初年度にあたること−がございます。これらを記念し、本シンポジウムを開催致します」との挨拶があり、シンポジウムの概要が説明された。
 
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■医療の現況とシエーリングのビジネス戦略
 続いて、シエーリングAGの研究開発担当責任者および代表取締役のストック氏から、シエーリング・グループの研究開発活動・戦略についての発表があった。

 「近年、世界的な老齢化が進み、脳の疾患、虚血性心疾患、悪性腫瘍等の疾患は増加傾向にある。現在は、それらすべての疾患の10〜20%しか根本的治療ができておらず、特に悪性腫瘍、循環器疾患、中枢神経系疾患に関して優れた治療薬・診断薬が必要とされている」と現況を述べ、今後は、分子医学やゲノム学の進展が、多くの病気の予防・診断・治療に役立ち、またQOLの向上を目標とするためには再生医療がカギとなる、という考えを述べた。

 次に、シエーリング・グループのビジネスについてデータを示した。研究開発にグループ総売上の19%を投資(2002年度実績)しており、日本、ヨーロッパ、アメリカを拠点とする4,600人の研究員によって研究開発がすすめられている。また純売上げは年率13%、純利益は19%で伸びており、世界的に成功を収めている企業であることを強調した。
 「このような情況のなかで、疾患の理解、予防、診断、治療、そして再生医療に関して、シエーリングは主に 4 つの領域−画像診断薬、婦人科・男性疾患の領域、皮膚科領域、特異的治療薬−をカバーしている。診断薬市場では、放射線で30%、MRIで60%もの市場シェアを持つ先駆的存在である。また、多発性硬化症治療薬として世界で初めて承認された“ベタフェロン”をはじめ、前立腺癌の治療や受胎調節の領域でもマーケットリーダーとしての地位を築いている。将来的には、放射性医薬品の市場への参入も計画している」と締めくくった。
 
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■MRI造影剤開発の足跡
 次に、シエーリングAGの診断薬・放射性医薬品戦略ビジネスユニットの臨床開発部門長であるニンドルフ氏から、診断薬・放射性医薬品開発の概要についてプレゼンテーションが行われた。

 「過去70年以上にわたり、シエーリングは、造影剤の研究開発のパイオニアとして突き進んできた。1981年に初の血管造影用非イオン性造影剤を発売し、1986年に最新の非イオン性造影剤“イオパミロン”を上市、そして1988年に世界初のMRI造影剤“マグネビスト”を上市した」と述べ、以後、造影剤の研究開発の経緯について、当時の機器や研究者たちの写真を交えて説明した。

 磁気共鳴の原理を臨床の画像診断に応用することが初めて検討されたのは1971年である。東芝、GE、シーメンス社などによって世界初のMRIのプロトタイプが作られたのは、それから10年後の1981年であった。
 当時は、最新の画像診断技術があれば造影剤は不要であると考えられていたが、シエーリングの研究者ワインマン氏らは、そのようには考えなかった。新しい画像診断モダリティのための造影剤を考案・設計したのである。それが世界初の金属キレートをもつ“マグネビスト”であり、彼はその特許を獲得している。

 そして 2 年半の試行錯誤を経て1983年に臨床開発がスタートし、第 I 相〜第III相においてマグネビストの有効性と安全性が検証された。イオン性X線造影剤に比べ、非イオン性X線造影剤の安全性は 4 倍優れており、マグネビストはさらに非イオン性X線造影剤の 2 倍安全性が高いという結果が得られた。
 学術文献のMRIの領域では80〜90%にマグネビストが使われていることからも、マグネビストは有用性、多様性に優れており、今後も造影MRIの発展に寄与すると思われる、という見解を述べた。

 また、開発中の製剤についても触れ、現在同社では「血管内貯留型造影剤(Blood Pool Agent)として、血中でアルブミンと結合し高分子化する“MS-325”や、高分子化合物である“Gadomer”を開発中である。これらは、いずれもガドリニウム化合物であるが、高分子化により血管からの漏出を抑え、血中に長く滞在するよう設計されている。そのため、MRAなどへの応用が可能で、血管病変部の精度の高い診断に貢献することが期待されている」と結んだ。
 
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■画像診断はどのような発展を遂げたか
 続いて、埼玉医科大学教授であり、日本で最も著明な放射線科医のひとりである平敷淳子先生から、“MRI技術の進歩と将来の画像診断”から何が期待できるかというテーマについて述べられた。

 「画像診断の進歩は、X線からCT、MRIへという画像法の進歩に、機器の進歩・コンピュータの開発と、それらを支えるソフトとしての造影剤の開発が大きく関与している。また、正しい画像診断を行うための要素は、(1) 専門医がいること、(2) 低侵襲性であること、(3) コストパフォーマンスに優れ、そして (4) one stop shopping(MRIのなかですべてがわかる)であること」を挙げた。

 MRIで用いられる情報キャリアは、それまでの画像診断にはなかったものであり、MRIは異なる組織の情報を高い機能コントラストで提供できるものである。これを、転移性脳腫瘍や心筋梗塞の症例を挙げながら、『闇夜にカラスは見えないが、闇夜に星は輝いて見える』という言葉で表現した。

 続いて造影剤を含むMRI関連技術の進歩として、(1) 高速イメージング技術、(2) 高分解能画像(かなりはっきりとした画像が撮れる)、(3) 高磁場(1.5T)よりさらに超高磁場(3T、7T*)の装置が臨床に使われていること、そして (4) 新しい臓器特異性の高い造影剤の進歩の 4 つを挙げ(*注:現在、日本では7Tの装置は使われていない)、絶えず動く胎児の姿を 1 秒以下で撮像できる例(高速イメージング)や、CTでは塊に見える前立腺でも、癌の部分が明らかに分離して見える画像例(高分解能)を示した。また、総腸骨動脈〜外腸骨動脈から足の先までを秒単位で撮像することができる血管造影の例(超高磁場)を示した。特異性造影剤の例としては、シエーリング社とベンチャー企業EPIX社で共同開発中の、動脈硬化のアテローマに特異的な造影剤が紹介された。

 最後に、造影剤に期待するものとして、さらなる臓器特異性の高い造影剤と、血管内貯留型造影剤の 2 つを挙げた。例えば、臓器特異性の造影剤Gd-EOB-DTPAは肝細胞に、SPIOは逆に網内系細胞に取り込ませてその像を浮かび上がらせるというものである。血管内貯留型造影剤は、血管内に長くとどまる性質を持つものであり、今日のように速いスピードで撮像可能な環境下では、頭頂から足の先までが 1 分以内で撮像が可能であるとし、まさにone stop shoppingの実現を可能とする技術であることを強調した。「これらの新しい(技術と造影剤の)開発が、医療現場において大きな支えとなる」とまとめた。
 
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■MRI造影剤のマーケットシェア
 最後に、日本シエーリング診断薬・放射性医薬品ビジネスユニットのジェネラルマネージャーである渡辺修次氏から、日本シエーリングの現在と将来のMRI関連製剤についての紹介が行われた。

 はじめに、市場についての説明があった。
 「MRI機器の稼働台数は毎年順調に増えており、昨年度における日本国内のMRI稼働台数は約4,400台と推定される。この機器の普及に伴い、MRI診断に使われる造影剤の市場規模も順調に拡大している。薬価基準レベルでの昨年度実績は、約165億円のマーケットと推定でき、現在、全身の適応をもつ細胞外液分布型造影剤がマーケットの主流を占めている。肝特異性造影剤の市場は非常に小さいが、今後の延びに期待したい」と述べた。

 「現在、細胞外液分布型造影剤は 4 社から販売されているが、マグネビストは60%弱のシェアを有し、市場をリードしている。一方、肝特異性造影剤のマーケットは、リゾビスト(2002年12月に発売)が1-2月の累計実績で60%強のシェアを得ていると推定できる。対前年同期の実績との比較では50%強の成長をみており、今後の売り上げ増が期待できる。将来的にMRI造影剤市場は、診断におけるニーズが多様化していくと考えられ、何らかの臓器・部位に特異的に集積する特異性造影剤の分野が大きく伸びると思われる」と分析した。

 続いて、現在開発中の製剤について説明があった。
 「今後の市場のニーズを考慮し、細胞外液分布型造影剤マグネビストに新しい用法用量を追加すべく、2002年 9 月、MRAに対する倍量投与の申請を行った。マグネビストは全身の適応を持っているので、MRAに使うことに全く問題はないが、現在の用量は0.2mL/kgであり、より鮮明な画像を得る目的で倍量投与のニーズが高まっていた。このニーズに応えるべく、正式な承認用量を得る目的で申請した。今後、転移性脳腫瘍についても倍量投与の申請を行う予定である」というトピックスが伝えられた。

 次に、肝臓領域の特異性造影剤について紹介があった。
 「肝特異性造影剤リゾビストを2002年度末に発売した。これは酸化鉄粒子からなる製剤であり、肝臓にあって異物を処理する貪食細胞のひとつ、クッパー細胞に特異的に取り込まれる性質を持つ。クッパー細胞は、転移性の肝臓癌細胞には存在しないと言われており、リゾビストを投与することにより周囲の正常細胞との間に鮮明なコントラストが得られる。このためリゾビストは、特に転移性肝癌の検出に極めて優れた造影効果を発揮する製品である。日本シエーリングではもうひとつの肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAを肝細胞癌(原発性肝癌)の診断を目的として開発中である。肝細胞癌は新生動脈で癌細胞の成長が促進されるため、血流の情報が診断の重要な観点となる。Gd-EOB-DTPAはこの血流情報を得られることに加え、正常肝細胞に取り込まれるため、癌細胞との間にきれいなコントラストを得ることができる。したがって、肝細胞癌の診断に極めて有効である」と説明した。

 「2002年12月10日に発売した肝特異性造影剤リゾビストは、2003年3月度で約800の病院で採用されている。マーケットシェアは 2 カ月のみの集計で約63%と推定され、順調に市場に浸透してきている。本年度は約 7 億円の販売見通しであり、中期的には30億円の販売を見込んでいる。もうひとつの肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAは臨床第III相試験がほぼ終了し、2003年後半の申請に向けて準備中である。Gd-EOB-DTPAは2005年の発売を予定しており、将来的には30億円の売り上げを期待している」と述べた。

 続いて、肝臓以外の特異性造影剤として、血管内貯留型造影剤(Blood Pool Agent)の開発も視野に入れていることについて触れた。
 「この血管内貯留型造影剤は、細胞外液分布型造影剤と比較して、血中の滞留時間が長いため、血管性疾患や心臓疾患の診断に非常に有効なものである。この血管内貯留型造影剤は、MS-325とGadomerの 2 つの候補製剤を有しており、現在日本での開発計画を検討している」と発表した。

 「日本シエーリングにとって診断薬ビジネスは今後とも極めて重要な位置を占めるもので、なかでもMRI造影剤は将来的に大きな伸びが期待できる領域であると認識している。今後は、細胞外液分布型造影剤マグネビストに用法・用量を追加し、特異性造影剤を開発・導入することで、MRI造影剤市場における圧倒的なシェアを確保していけるものと確信している」とまとめた。
 
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