20世紀も最終に近づき21世紀の風が吹き寄せてきている.Y2Kという風が吹き荒れてきたが緊急対処で無事に通り過ぎていった.蒸気機関の開発による産業革命以前は,地球のエコロジー的エネルギー「風」で世界を航海していた.向かい風・追い風・横風・風のないとき,どんな自然でも目標とする進路へ工夫し到達してきた.今日の放射線治療に吹く風と進路を考えてみたい.
癌治療における三本柱は,外科手術,化学療法,放射線療法であり,その中で放射線治療は機能と形態の温存するQOL=quality of life(生命の質・生活の質)を考慮した治療を,宣伝文句として挙げてきた.QOLは患者側の問題であるが,医療従事者側としてはQOT=quality of therapy(治療の質)という問題を考えるべきである.放射線治療の治癒への寄与は,癌の治癒率を全体で45%とすると,放射線治療は癌患者の約25〜30%に適応されており,その中の20〜30%が根治治療の対象となっている.根治照射例と術前・術後照射例の約1/3が治癒していると考えると約20%の治癒症例に寄与していると考えられる.その反面,放射線治療施設や装置やマンパワーなどのハード面での貧困と不足は,放射線治療の有用性が正当に評価されない現実を作り出している.放射線治療専門医は極端に不足し,放射線治療専門技師も少数である.放射線治療機器も決して有効に利用されておらず,放射線治療のquality control(質の管理)とquality assurance(質の確認・保証)も確立しているとは言いがたい.治療法の有用性評価は医療の質の検証と良質な医療が確保されたうえで検討され,その保証のないものは,世界に通じるデータとして取り上げてもらえない.
最近のコンピュータ技術の相乗的発展はめざましく,高精度放射線治療システムの風が吹いており,画像装置とコンピュータテクノロジーの進歩は,より病巣の形状に即したconformal radiotherapy(原体照射法)として一括される照射技術につながった.三次元治療計画装置の高速化とともに,体軸の多方向から三次元的に多軌道で集光照射する方法は,頭蓋内以外に体幹部にも試みられ,局所制御率の向上が期待される.しかし,これらのハイテクシステムは高精度の放射線治療を可能とするが,マンパワーの不足を補うものではない.むしろ放射線統合システムはより複雑な治療が可能なためマンパワーを必要とする.
放射線治療技術に求められていることは,治療技術の開発,照射精度の向上,機器管理と放射線量の品質を保証することである.21世紀の風としてこのことが重要視されて認められたのか,保険診療上初めて「放射線治療専任加算」が今年度より施行された.人員問題も含めて賛否両論の渦が巻いているが,放射線治療専任加算に関する施設基準に,担当医師および診療放射線技師を届けることになっており,これは仕事の専門性を重視した改訂といえる.今後の方向性を担うことは間違いない.
学術団体「学会」の基本方針である学術研究答申においては,社会への貢献が提言されており,社会的期待へ積極的に対応すること,大学・試験研究機関・企業などと連携し,明確なルールに基づく産学連携の展開をすることが推進されている.高度先駆的放射線治療の発展は産学連携の共同作業がなければ可能とならない.現在までの発展もこの共同作業の成果により支えられており,現場で放射線治療を施行する技術者に最も重要な機器工夫の感性があるので,機器メーカの製品をそのまま納入するだけでは発展は望めない.機器の安全性・照射技術など共同開発が今後の高額治療機器の要となるだろう.ただ,技術,社会的連携・協力の推進をするために,研究成果を社会全体に還元し,国民理解を得るような産学連携を図るために,学術研究方法の明確なルール作りをしなければならないことはいうまでもない.
わが国は65歳以上の高齢社会を超短期間で迎え,15〜20年で2人に 1人は高齢者となる.そして癌は加齢に伴い増加する疾患であるため,癌罹患率は大幅に増加する.2010年には癌患者は70万人と推測され,死因の50%は癌となるかもしれない.高齢者に伴う手術不能例など一次治療の患者,局所療法による緩解治療など放射線治療患者は増加の一途を辿るであろう.放射線治療は,装置・施設に対する初期投資は高額であるが,比較的少ない費用で癌の根治的治療を行うことができる.また,得られた結果も臓器温存という利点を有し,進行癌や再発癌の対症的治療においても,費用有用性比は良好である.有限の医療費をいかに効率的に使って,癌治療に取り組むかが今後の治療の重要な柱であり,放射線治療の学術研究も効率的効果を考慮した研究であらねばならない.
間違いが少なくかつ高精度の治療を要求されている今日,一方で病院職員数は欧米のそれと比較して非常に少ない今日,放射線治療の進路は様々である.医療技術者が広い分野を理解でき,調和のとれた人達で,判断が適格であることにより,その施設の治療評価も,よい結果になるであろう.私どもは押し寄せてくる「風向きを決めることはできないが帆をあやつることができる」ことを心に留めておきたいものである. (放射線治療分科会長)
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