今回,被曝特集号が企画され,ここに発刊を迎えた.
現在,放射線診療を取り巻く環境は順風満帆とは言い難い.一昨年のJCO事故を含め,一連の放射線安全管理に関する事故や事例が跡を絶たない.そのことは医療分野においても例外ではない.
FDAのHPにIVRに伴う放射線皮膚障害に関する報告が掲載されたのは1994年である.本邦においても日本医学放射線学会が1995年に警告文を出して,関係方面に注意を喚起したにもかかわらず,放射線皮膚障害が発生したのは放射線防護管理に携わるものにとって非常に残念な出来事である.また,医療機関における密封小線源の紛失や放射線防護衣の脱落,および集団検診における過剰被曝の発生は放射線診療に伴う安全管理がおざなりであったと指摘されても仕方のない事例である.一方,医療廃棄物からの放射能検出問題は従来の放射線管理形態の見直しを迫られている.このような状況下に本学会の主要な研究テーマである放射線防護管理に関する論文特集号が企画されたことは非常にタイムリーであり,放射線防護管理に関するホットな話題に対して多数の論文が寄せられた.
IVRに限らず,放射線診療における患者および従事者の安全を担保する方法を確立することは技術学会に課せられた役割である.技術学会では,叢書17にIVRにおける患者および従事者の被曝対策をまとめてきた経緯がある.また昨年度,学術委員会「血管撮影検査における標準的な術者防護用具検討班」を組織して作業し,結果がここに掲載された.さらに,血管撮影領域における術者防護に関する研究や制御方式による被曝低減法に関する研究も掲載されているのでご参考いただきたい.
IVRにおける放射線皮膚障害が発生していることは周知の事実であるが,日本における実状を把握している会員諸氏は少ないと思う.ここに,本邦におけるIVRに伴う放射線皮膚障害例を掲載し障害の程度を把握するとともに,障害の発生原因と防止方法を考察した.皮膚障害防止の最も有効な手段は,患者皮膚入射線量を測定することであるが,臨床の最中にそれを実施することはなかなかに難しい.臨床現場における簡便な推定法に関する研究が寄せられているので,ご参考いただくとともに会員諸氏のご意見をお聞かせ願いたい.
今年の 4 月 1 日に放射線防護関連法令の改正施行がなされた.われわれに最も関係の深い医療法分野では,国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告の取り入れ,エックス線装置等の防護基準の見直し,新しい医療技術への対応を骨子とする改正がなされた.本学会では,関係法例等検討小委員会が法令改正に関する経緯と背景および改正の要点に関して会員諸氏への広報を行ってきた.本号においても新法令に対応した放射線管理のあり方について解説を加えている.今後,関係各位へのさらなる周知徹底が必要であるとともに,新しい医療技術の導入にあたっては今までになかった放射線の利用形態が発生するので,一般市民が不利益を被らないように,安全の確保と事故防止を図る必要がある.
“今春,ICRP1990年勧告を取り入れた法令改正がなされた”と前述したが,ICRPはクラークが提唱している新しい放射線防護体系に基づく勧告を2005年以降に出すことを計画しており,現在この新提案に対し,世界で活発な議論が展開されている.放射線防護管理が主たる研究テーマのひとつである本学会において,これまでのICRP勧告に対する取り組みおよび姿勢は,寛容と容認であったように思う.本件に対してよりいっそう,情報収集と公開を図るとともに,学会としての意見を展開していくことも今後の方針として必要である.その手段として,日本医学放射線学会との連携を図ることはもちろんのことであるが,医療放射線防護連絡協議会を始めとする放射線管理関係学会との関連が重要となる.放射線安全管理学会が平成13年11月 7 日に設立されたが,この状況は管理学の必要性を示すものである.また,防護管理の基礎をなす放射線計測に関しては,医学物理学会との連携が重要となる.一方,IVRにおける皮膚障害の防止を目的として,「IVR等に伴う放射線皮膚障害とその防護対策検討会」が関連学会の協力を得て設置され,平成13年10月27日に第 1 回検討会が開催された.技術学会は,放射線関連学会だけでなく,循環器病学会や心血管IVR学会,皮膚科学会等の臨床系学会との連携を取りながら,情報提供と広報活動を展開していきたい.
以上,本学会を取り巻く放射線防護管理の実状と本特集号の内容について,かいつまみ述べた.現在,新しい医療技術の導入が加速度的に展開されており,われわれはそれに対応していく必要がある.しかしながら,応用を求めるあまりに基礎を蔑ろにすれば,その先にあるものは創造性の枯渇である.技術学会としては,放射線診療における安全文化を成熟させていく必要があり,学会誌はそのための重要な役割を果たすものである.投稿いただいた十数編の論文中,本号に掲載できたもののほか,査読中のものもある.これら査読中のものは査読終了次第,随時掲載予定である.今後も防護管理関連論文の投稿を期待する次第である.
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