Guest Editorial | Jpn J Radiol Technol 2002; 58(6) |
今後の放射線治療技術研究
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ゲスト・エディタ 内山幸男(愛知県がんセンター病院) 熊谷孝三(国立病院長崎医療センター) コ・エディタ 保科正夫(東京医科歯科大学病院) 吉浦隆雄(産業医科大学病院) |
放射線治療技術開発はメーカ主体でよいか.確かに当学会の会員構成は95%が放射線技師で,後は放射線技術学科の教官となっており,直接的に患者さんに治療・診断に関する仕事を従事し,開発研究を考える暇などどこにあるという会員も多くいるだろう.それよりは技術開発の専門スタッフを多く専従するメーカに装置開発を任せれば,より効率的で一般性のある製品を開発してくれるという現状もある.しかし,果たしてそれで実際的な患者治療に適した治療装置の開発が可能であろうか.また,学術団体としての研究論文の数,内容が問われている今日,当学会の治療技術分野においても同様な問題を抱えている.治療機器メーカが開発した装置の仕様試験では,独自性のある学会では原著論文として採用されないし,新しい機器開発は限られた産学共同ができる施設でなければ可能でない.研究論文を投稿する前に躊躇する者もいるだろう.しかし,役立つ治療技術論文とはそのように高く構えなければならないのだろうか.この,放射線治療技術特集号から今後の放射線治療技術研究論文の切り口と必要性を考えたい. 最近,IMRT (intensity modulation radiation therapy)という新しい放射線治療技術を導入する施設が,治療機器・治療計画の市販宣伝とともに流行のように増えてきた.この技術はハード面のロボテック開発とコンピュータの飛躍的な発展によるソフト面の開発が相乗して可能となった治療技術である.放射線治療の基本は健常組織の被曝を最小限にして,病巣組織に高線量を投与することが,放射線治療始まって以来の公理となっている.原体打抜照射と称した照射技術もこの健常組織(水晶体・脊髄)の被曝を最小限にして,病巣組織に高線量を投与する方法として開発された照射技術である.IMRTはより汎用性のある方法でtarget volume (標的体積)と重要健常組織との線量投与と被曝限界との最適解を求めて線量強度分布を作成し,その線量強度分布にしたがって照射する方法である.原理的にはtarget volumeの形状がどのようであっても可能であるが,target volume と重要健常組織が近接している場合,または重要健常組織の周囲をtarget volume が包むように照射をしたい場合など,意図するような解(線量分布)が得られないなど,まだ人的な試行錯誤が必要な段階でもある.放射線治療技術は空間的な線量効果比を狙った方法であるが,そのために開発された方法がIMRTで,この照射を確実に施行するにはいくつかのクリアすべき研究項目がある.IMRTの実際の照射とは,強度マップにしたがった小照射野の積み重ねであり,小照射はSRT (stereotactic radiation therapy)と同様と考えられる. 1 cm2程度の小照射野においては,線量測定の誤差が大きく,測定系そのものの研究も必要である.また,IMRTにおける線量勾配は急峻であるため患者の体外・体内の固定法が重要な要因となり,体外ではボディフレーム・頭頸部マスクなど改良されつつ使われているが,体内の動きは体内マークの追跡照射,呼吸同期照射など,より実用的で確実なものに仕上げることが今後の研究課題である.IMRTではtarget volume内が均一な線量分布でなく,治療計画装置で計画した線量分布が,強度マップに変換して照射したとき,計画通りであるかどうかの確認が必要であり,その時の確認方法とフィルムなどの測定系およびその精度が大切な研究と考えられる.したがって,IMRTが実用性のある治療法となるかどうかは,治療機器メーカよりは,今後,治療現場でのクリアすべき項目の研究いかんである. 一方,放射線治療技術の研究は,機器のQC・QAなど地味な部分と新しい治療法など先端な部分があるが,放射線治療を向上するため,もしくは患者さんのQOLを高めるという治療目的には,両輪のようにどちらの研究がよいという問題でなく,今後の放射線治療技術研究として取り上げるべきである.放射線治療技術にかかわる研究は,治療装置の開発,周辺画像取得装置と治療計画装置の開発,QC・QAのデータと器具の開発,啓蒙的データ,高精度治療するための線量測定,治療補助具の開発,患者固定法および固定具開発とその測定,治療計画アルゴリズム精度確認と線量分布検証,最新の治療計画システムの検討,照射技術,照射位置再現性の解析,特殊治療の開発とシステム設計,治療関連データベース,治療施設設計と防護管理など広範囲におよんでいる.私意ではあるが,原著論文・技術論文と区別した投稿規定より,すべて研究論文として統一化して受理した方がよいのではなかろうか.なぜならば,放射線治療技術研究というのはデータの積み重ねが現場で役立つ貴重な論文となるからで,追従試験データも大切な技術論文と考えるからである.そして,放射線治療技術の今後はこれらの項目を着実に論文として残しておくことが,新たな治療現場の発展と治療機器開発に結びつくことは間違いないことであろう. この特集号は最新治療のIMRTに関する論文が 4 編あり,「線量検証」,「MLCの位置精度と線量プロファイル」,「出力係数アルゴリズム」,「電離箱体積平均線量評価法」など,IMRT治療を施行するための技術的課題を研究してある.IMRT治療法はこれまでの治療技術をもう一歩前進しないと高精度治療ができない手法であり,近代戦争における開発された技術がほかの平和産業分野で,飛躍的発展の恩恵を受けたと同様に,IMRT技術を確実にルーチン化できるようになることは,放射線治療技術の精度向上に繋がることとなる.後の 5 編は「線量測定装置の開発」,「定位治療の標的照合の考案」,「線量分布解析装置の精度」,「最新治療装置の特性」,「被曝低減した照射技術」など,応用学問である治療技術現場にとっての有用な研究である.そのなかで,大学病院でなく市民病院における患者さん治療と直結した「被曝低減した照射技術:高エネルギーX線外部照射における照射野外放射線量とその低減−セミノーマの除睾丸術後放射線治療における健側睾丸の被曝低減を中心に−」という研究は,今後の時代を背景とした治療現場における研究として賞賛に値すると考える. 高学歴化に伴う大学院卒の放射線技師の職場は,大学病院(全放射線治療保有病院の16%)とは限らず,市民病院とか一般病院・公立病院となり,そこでの放射線治療技術研究は,研究もそのような患者さんの存在する治療現場である.機器の整備,予算面,ハード面・ソフト面において大学病院よりかなりの制約があり,研究機関でないための産学共同を組むことができない.しかし,74%の病院はその環境にあるからこそ,治療装置はどのようにすべきか,高精度治療をするにはどのようにすべきか,EBM(evidence based medicine)とcost benefitを考慮した機器開発はどのようにあるべきか提言できる研究場と考える.放射線治療技術における研究は,そのような実際に即して何が大切でどのように進むべきかを把握でき,患者さんの要求に合わせた研究が,今後の機器開発・周辺システムの実用的有用性があり,日本における不公平のない均一化した高治療レベルを提供する大切な要因である. 今日,放射線治療技術の発展はそれらの難問を一つずつ克服することであり,その克服が新技術を包含する高精度放射線治療へのステップとなる.放射線治療技術開発はメーカ主体でよいか.答えはノーである.患者さん主体を代弁する放射線治療技師主体の治療装置・治療計画とし,その製品化にメーカの技術力で完成してもらうのが本来の姿である.そのためには,多くの研究をわれわれに科せられた命題かもしれない.今後,当学会の放射線治療に携わる会員が総力でよりよい時代を担いたいと考える. |