JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(5)
学会の求心力
小川 敬壽 

 去る 4 月 6 日,平成12年度の本学会総会が神戸国際会議場で開催された.今回は評議員総会になって 2 年目の総会であったが,評議員に加えて一般会員の参加も得られ,これまでにない緊張感と会員の学会を思う気持ちの高鳴りを感じた総会であった.
 そこでの会員の関心事は,ここ数年来の会員数暫減に対する学会側の歯止め対策や,それを引き留めようとする部会活動の苦悩,そして学会誌編集業務の簡素化と効率化の具体策,さらに年次計画に基づく研修事業に振り回される班員や協力企業の窮状,そして臨床技術を本学会研究領域の主軸に要望する意見や最近の厳しい金融情勢下での財産管理など,学会の将来を見通した意見から,部会や委員の窮状,要望などが総会に提示された.
 このように評議員からの真剣な意見や要望などで,例年にない闊達な討論が行われたが,こうした問題には当然執行部として 1 年間かけて真剣に取り組み,事業としての最善の選択を行ってきたことは言うまでもない.こうした熱意に満ちた質疑討論は,学会に求心力があることを物語るものではあるが,全会員の考えが建設的で善意に貫かれていると解釈したり,求心力に沿っていると考えるのは早計のような気がする.
 ここで本学会になぜ求心力が必要なのかを考えてみたい.
 いつも言われることだが,本学会の会員の 9 割以上は,医療のなかで臨床技術を診療に役立つ職業を持った会員であり,その多くは,現在の自分の臨床技術をより高いレベルへ持ち上げる研究や,問題点を明らかにすることに関心を注ぎ,その研究した成果を学会誌や学術大会の場で発表したり,またほかの発表から自分の知識や技術を向上させる情報に高い関心を注いでいる.他学会の自己主体形に比べ,ほかから得られる情報を客観的に受け止め,自分の技術に最大限活かそうとする会員が多く見受けられる.求めようとする情報のために,会員は学会に対して向心力を働かせる.これらの情報の多くは,学会誌における学術論文であり,臨床にすぐに役立つ特別寄稿や身近に感じる臨床技術が関心の的であり,もう一つの情報源は学術大会における会員の研究発表であろう. 学会誌は,会員の求心力をかき立てる意味で大きな役割を果たすメディアであるが,会員の多くがこの学術情報にどこまで興味を持って,いつ手元に届くかと期待しているかを考えると,学会側の期待とは必ずしも一致しない現実があるようである.この学会誌が学術情報に加えて,わが国における今後の医療や保健に関する国や主要機関の動き,さらに関連団体の最新情報を流す役割を担うならば,会員に対する求心力に大いに作用すると考える.最近の情報源は印刷物からインターネットへと移りつつある.本学会のホームページへのアクセスも 5 万 8 千件を超えて,そろそろ会員にもこのインターネットが情報取得の手段として急速に利用され始めている.このメディアを利用して,会員が求める情報を学会側が精力的に流すのも求心力を高めることになるし,またこの延長線上に,過去の文献調査の手助けになる電子図書館サービスを普及させることも求心力の有効な手段と考えてよい.
 話は変わるが,ここ数年会員数の減少が学会として重要問題に考えられている.数年前より学生の入会促進制度が功を奏しているが,それでも総会資料によると平成12年度末の会員減少数は243名で,毎年200名程度の会員が減少して,学会の将来が危ぶまれるという考え方がある.この退会の理由が求心力不足に起因するのであれば,その力を増強するために精力的に取り組まなければならないが,事務局から提供いただいた退会理由資料を分析すると,退会者の 5 割弱が定年や健康状態,退職などの経済的理由によるもので,この大きな比率は学会の求心力ではどうにもならない数字と考えるが,4 割強の退会者は学術大会での発表のために入会し,必要性を感じなくなった時点で退会を繰り返す入退会グループであり,それに対して今以上の求心力を働かせる努力を蔑ろにしてはならない. 私たちの学会は,執行側の努力だけで成り立っていけるものではない.会員の皆さんが学会の活動に対して直接あるいは間接的に意見を述べ,学会をより身近なものとして実際に参加することが求められるし,それに対して学会は,会員の声に耳を傾け,柔軟に対応しながら学会本来の使命を果たすことによって初めて,学会の求心力と会員の向心力が手を結ぶと考えるがどうであろうか.
(監事)