JSRT 巻頭言 | Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(6) |
開かれた学会と学会活動の活力
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倉西 誠 |
21世紀最初の連休の一日,雲ひとつない快晴と初夏の薫りに誘われて散歩(人は徘徊ともいう)に出かけました.植えられたばかりの早苗の上を心地良い薫風が吹き抜け,柄にもなく悠々自適の隠居生活を気取って歩きましたが,頭のなかには何か違和感がつきまとっていました.それは,富山が誇る剣岳や大汝山,雄山,浄土山などの3,000m級の山々が並ぶ立山連峰が,景色のなかから消えていることが原因であることに気付くのに時間はかかりませんでした.冬,同じような快晴の日,立山連峰は富山平野を取り囲む屏風のように威風堂々の姿を誇示し,時には頭の上にのしかかるような近さで雄姿を見せてくれています.この違いを考えた時,真実(立山連峰の存在)は同じであり,周囲の環境(快晴の日)が同じであっても,その時々の状況によって人には見える姿が違うことを,自然が改めて教えてくれたような気がしました.言い換えれば,環境や状況のみに目や心を奪われると,そこに隠されている真実を見落とすことがあることに心すべきということなのでしょうか. 現実に戻り,この観点から本学会のことを自分なりに考えてみました.本学会の愁眉の問題は会員の減少であり,その歯止めをいかにするかが執行部に問われている最大の課題と考えます.また,このことは多くの学会や職能団体でも問題となっており,そこでも解決策を模索していることを見聞きしています.「会員減少」は同じ言葉でありながら二つの側面を持つと考えます.一つは現会員の退会を引き止めることであり,もう一つは新しい会員を獲得することではないでしょうか.前者の対策として「魅力ある学会」が望まれていますが,具体策が見えてこないのが事実ではないでしょうか.もちろん,会員個々にとっての「魅力ある学会」の姿はあると思います.しかし,本学会の専門領域や会員職種の多様性を考えますと,それを集約するにはあまりにも幅が広く,全会員が納得できる形を産み出すのは至難の業であり,かつ一つの方向性を持った「魅力ある学会」とすることには問題があるようにも思います. もう一つは新しい会員の獲得ですが,これは現会員をなおざりにする意味ではなく,若くて新しい血を本学会に引き入れることで,将来的な新陳代謝の可能性を本学会の活力源にしようとする考え方です.本学会の会員の多くを占める診療放射線技師の教育制度が大幅に変わってきたことを考えますと,新しい会員を獲得するための環境は整ってきたように思われます.また,この環境に状況を加えるとするならば,診療放射線技師を教育する機関の教官に本学会を正しく理解してもらい,積極的な協力と支援をお願いする必要もあるでしょう.そのため,教官の会合などに出かけて行き,本学会をアピールするとともに教官側の意見を拝聴して活動に活かす必要があります.これを目的に「関係教育機関との連携」を,企画委員会の平成13年度活動計画に挙げました.平成12年度の臨床教授問題検討会議は,この活動の先駆的な役割を達成し,多大な成果を上げていただきました. しかし,これらはあくまでも環境と状況を改善する手段であり,真に学会活動が目指すところは別にあると思います.本学会が行うべきことは定款第 4 条に挙げられている「この法人は放射線技術学に関する研究発表,知識の交換並びに関連学協会との連絡提携を図り,もって学術の進歩発展に寄与することを目的とする」で,付け加えれば「学術の進歩発展をもって,社会に貢献する」ことと考えます.確かに「数は力なり」もひとつの考え方ですが,最近の大きな政治改革を引き起こした原動力は世論の力ではないでしょうか.もう数の力で押し切る時代は終焉を迎えたのではないでしょうか.本学会も愁眉の課題である会員減対策を考えながらも,世に自己の活動を問いかけ,また社会活動に協力・参画することにより「社会に貢献する」という目的が実現されれば,本学会が「社会から必要とされる学術団体」という真実に到達できると考えます. 初夏の薫風に吹かれながらの思いを書き連ねました.風のせいで思考がふらつき,文章のまとまりにかけましたことをお許し願い,皆様のご意見やお考えをお教えいただければ幸いです. (理事・企画委員長) |