JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(7)
学術図書出版の意義
加賀 勇治 

 本学会の事業の一つに放射線技術学に関する学術図書の刊行があり,出版委員会が担務している.委員会は,放射線技術に関する学術書,教科書,マニュアルならびに叢書の企画出版を主務とし,今日まで着実な活動を続けてきた.
 「診療放射線技術学大系」は,昭和53年に放射線技術の基盤となる学問体系の確立を目的として企画され,平成 6 年度に全15巻の完成をみた.昭和63年に開始した「放射線医療技術学叢書」は,学術委員会の下で行われた各学術調査研究班の業績と分科会や部会からの提案による教育的な分野を基本とした内容で,発刊も軌道にのりすでに20巻を数えている.平成 4 年度の「技術学会刊行物に関する会員の意識調査」を基に,放射線技術固有の図書を企画し,平成 8 年に「臨床放射線技術実験ハンドブック」を発刊することができた.これは本学会の全研究分野を網羅した実験指針書である.
 「学会が教科書を出版することの意義」については,平成10年度に会員に広く意見を求めた.さまざまな意見が寄せられたが,技術学会が学術会議の会員である以上教育に関与するのは当然であり,学会の長期的事業計画の投資と考えなければならないとの合意を得た.そこで,平成11年度に出版委員会のなかに,全国の教育機関の教官による「教科書刊行班」を設置し,系統的講義と臨床実習との両極に通用するための教科書を目指して,教育と臨床現場で学生の悩みを肌で感じている教官が具体的な検討に着手した.基本的には「現在市販されておらず,本学会が最も得意とする学術分野で,最新かつ信頼に足る内容」を盛り込み,平成13年度からの診療放射線養成課程のカリキュラムに沿った内容にすることを目指している.具体的には,「放射線技術学シリーズ」として,平成14年度までに 9 冊の発行を予定している.今年度は「放射化学」,「MR撮像技術学」,「放射線生物学」,「核医学検査技術学」が発刊される運びである.
 近年,学術出版を取り巻く環境は大きな変貌を遂げようとしている.その一つに,学術雑誌の電子ジャーナル化がある.外国ではすでに数年前からその動きがみられている.学術雑誌の目次や抄録をインターネット上で公開することはすでに一般化しており,ときには全文さえも提供している.日本でも,出版物として成り立っていた政府情報系資料がデータベース化され,インターネット上で無料公開される時代になった.世の中は,確実にネットワーク化,マルチメディア化に向けて進んでいる.紙媒体による学術図書や雑誌の役割は,相対的に低下していくことになると思われる.本学会でも,学術図書の制作と並行してデータベース化を進める時期と思う.将来的には,インターネット上での公開や「カスタム学術書」の提供を通して,データベースを有効に活用することが必要になるであろう.出版委員会の活動にも,世の変動に合わせた柔軟さが求められるものと考えている.従来の殻から脱皮すべきときが迫っている.
 会員の要望に合わせた学術図書を提供することが,出版事業の重要な任務と思う.会員の声を聞き,要望をいかに反映するかが出版委員会に問われることになる.放射線技術学を論ずるには本学会が発刊する学術図書を読んでおけばよい,そのような学術書の出版を念願している.
(理事・出版委員長)