JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(8)
尊い作業
藤田 広志 

 「夢に見る10年後のJSRT」(Vol.53, No.9:1997)というタイトルで前回は巻頭言を書いたが,4 年後の現在,その夢の内容のほとんどは文字通りまだ夢のままである.しかし,夢に見た時期まであとまだ 6 年あるので,もう少し待ってみよう.そして,この夢の実現の結果やその続きは,また次のチャンスに改めて書くことにしたい.そこで今回は,文章を書く(特にここでは論文を書く)という行為は大きなエネルギーのいる「尊い作業」である,という内容で巻頭言を書くことにする.これは,私の夢の実現のために,本学会誌の論文数の飛躍的な増加という最も重要な課題に関係するからである.
 私のような大学の研究者にとって,その活動業績の評価の大半は,研究論文(査読付きの原著論文)でなされる.この研究論文を書くという作業は,実に体力と気力と時間が必要な尊い作業であり,膨大なエネルギーを消費するものである.執筆の途中で挫折することなど,誰しも何度も経験するものである.私の研究室の大学院の学生の場合,大学院修了までに,単に大学の卒業論文のみならず学会誌に最低でも 1 編の論文をふつうは書いている.なかにはしばしば優れ者がいて,修士課程の修了までに 5 編程度の論文を書き上げ,就職後何年かして,論文博士の学位を授与される者もいる.最初の論文は,日本語であるにも関わらず,本人にとっては実に血と汗と涙の結晶であることが常である(それを添削する教官も同じ気持ちである).ところが,3 編目ぐらいになってくると,次第に腕前が上達してくるのが目に見えて分かるようになるのである.そして,10編ぐらい書くようになると,研究者としてもある程度の自信をもって研究や執筆ができるようになっているはずである.
 本学会における春と秋の学術大会の研究発表数はおよそ1,000件にもなるようであるが,論文の掲載数はまだ 1 割にも満たないというさびしい現状である(編集委員会の努力で昔よりは増えてきたのであるが).何ともったいないことであろうか!これは,決して発表内容の質が低いからではなく,単に論文化に対する会員の意識が低いことが大きな因子でもあると考えられる.なぜなら,本学会の大半の会員にとっては,論文数は直接的に仕事の業績に結びつかないのだから.しかし,これは学術系の学会としては超異常な現象であり,本学会としての最重要課題であると言っても過言ではない.論文にしないということは,せっかく苦労して掘り当てた原石を磨かずに大事に蔵にしまっておくようなもので,これでは宝物を獲得しても自己満足以外にはほとんど価値がない.絶対に論文として残すべきである.論文化は研究を行う者にとっては研究の仕上げという重要な作業であり(発表は単なる途中経過に過ぎない),研究の重要な証(軌跡)であり,あとに続く研究者のためにも重要である.また,診療放射線技師領域の高学歴化が進むなかでの業績の一つにも成り得る.かつて,本学会ではCRの画像評価の発表が世界に先駆けてたくさんなされたが,論文にはそれほど残らなかったために,かなり遅れてアメリカなどで類似の内容の研究論文が多く掲載された事例がある.これは悔しい限りである.その意味では,個人における論文化とともに,学会としては,優秀な論文をどんどん英文化して,インターネットなどで世界に発信することも重要である.
 一生のうちで,多くの研究者から数多く引用される論文を発表できることは,そんなに頻繁にあるものではない.自分のことで恐縮であるが,私の論文でたいへん引用頻度の高い論文が 1 編ある.それは,1992年にIEEE Transactions on Medical Imagingという工学系の一流論文誌に掲載されたもので,ディジタル系におけるプリサンプリングMTFの測定法を取り扱った内容であり,これは「Fujitaらの“傾いたスリット法”」として広く引用されている.対象例はCRであったが,最近のフラットパネルディテクタの時代になり,ディジタル系の代表的なMTF測定法の論文として,またさらに引用されるようになっている.
 学会としても知恵を絞って,論文化推進のための方策をさらに検討する必要がある.論文の重要性を強調するために論文を会誌の冒頭部分に掲載するとか,表彰における論文賞の充実(臨床技術賞の創設など),学際領域であることを認識して医師や工学系からの投稿の推奨・優遇化,医療系大学学生の卒業論文の論文化推奨策,分科会長推薦論文の制度化などなど,方策は無尽蔵に存在する.
 最初の一歩は,誰でも勇気がいるものである.エネルギーもいる.だから尊い作業なのである.さあ,あなたも蔵にまだしまったままの大事な原石を取り出して磨きをかけ,いますぐに最初の第 1 編に挑戦しよう!
(理事・学術委員長)