JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(10)
多様化とグローバル化
内田 幸男 

 最近,どの学会でも学会誌の電子化の意気込み!がかなりみられます.地球の温暖化,砂漠化を考えれば,無駄となる紙の消費を抑えることは重要なことで良い傾向と思います.たとえ,紙の消費の減少により経済成長がいくぶんか沈滞したとしても,人類が地球に少しでも長く生きようとするならば,社会構造を人間の本能のままでなく知的考えに基づいた,ゆるやかなエネルギー消費にかえなければなりません.コンピュータの発達とともに,ほんの数年前までは,プログラム作成,ドキュメント作成,デバッグ,データ出力と膨大な良質紙が矢のようなスピードで出力するラインプリンタを必要とし,送りヒダのついた約A3サイズ,2,000枚綴り程度の連続紙がコンピュータ室に山積みとなっていました.しかし,最近はコンピュータそれ自体の飛躍的発展とハードディスクのコンパクト化に伴い,ハードコピー(紙)として保存するよりも膨大なハードディスク容量に,またはバックアップ用として安価なCD利用となってきています.また,電子化の意気込みを加速している大きな要素に,インターネットの洪水のような普及が挙げられます.インターネット怪物は,誰もが必要ならすぐ使える携帯電話に住み着き,入り込んだのです.5 年前と今日との携帯電話の性能・台数における違いは驚くべきもので,いつの間にか自分の分身のようになり,携帯電話をどこかに忘れたとか,持っていないときの不安といえば,どうでしょう.同様に,自分のパソコンが通信不良になったときのあたふたと落ち着かないおののきもわれながらびっくりします.はたして,この一度使ったらやめられない麻薬のようなインターネットは私どもに何をもたらしたのでしょうか.まずは,世界情報がどの分野でも得られたことによりグローバル化(ワールドワイド化)したことです.日本国際協力事業団(JICA)の放射線治療技術コースの昨年度研修生は,私が「原体照射の概念」を得意げに講義したところ,彼らの知識は強度変調照射(IMRT)・原体照射(3D-CRT)などに及び,それを如何によりよく実行するかを学びにきていましたので,先進な施設から来ていたかもしれません.数年前まで関心さえ示さなかった内容が,書籍流通が繁茂でなくともインターネットで情報を得ることはいとも簡単となり,知識・学問情報の世界的なグローバル化を果たしていると思います.
 インターネットの果たした役割のもう一つは多様化です.インターネット上で仲間達がサイトに参加することにより,友達・ゲーム遊び・悩み相談など自分たち独特の集団が,距離もしくは国境を越えて,ホームページという媒体を通して結び逢うことです.この個々の集団は社会的であれ反社会的であれ,多様化する現代価値観などを包み込むものであります.まさに,インターネット上で「逢う」こととなり,自分の見られたくない部分は隠し,あるいは見られないから心からの本音をインターネットの友に訴えることが可能です.破壊的グループには,コンピュータウイルス作成班が所属しているのかもしれません.
 さて,私どもの学会もこのような,グローバルかつ多様化の情報・価値観に突入しています.約17,000名の会員は,アクティブに参加し主張する人,情報源として利用する人,仲間上参加している人,やめたいけど上司から強制されている人,学問的な権威を目的とする人,技術的な知恵を重要とする人,書籍の代わりに利用する人,などとかなり多様な主張と,かかわりあいで会員になっているのが現状と思います.しかし,インターネットの情報が自分の欲求を満たすようになれば,なにも学会に所属する必要はなくなるかもしれません.それに対して最近の学会は,専門性の認定書を発行することにより学会の維持に努めているかもしれません.欧米諸国においても,学会の認定証がステータスとなるように努力しており,世界のグローバル化の波に,わが国も同じ波長を合わすようにしていることも事実といえます.治療分野にしても日本放射線技術学会,日本医学物理学会,日本放射線腫瘍学会,日本医学放射線学会,日本放射線技師会など多くの学会のグローバルな結びつきが必要であり,その波も押し寄せてきています.今後,当学会もこの多様化とグローバル化を調和良く包括するように考えていかなくてはならないと思います.
(放射線治療分科会長)