JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2001; 57(12)
CAD研究を始めよう
桂川 茂彦 

 本年度から画像分科会長となりました.この機会に,画像分科会がここ数年取り上げている重点テーマの一つである,コンピュータ支援診断研究の普及に関して,研究の重要性,他の研究と比較した場合の特異性,また,研究の進め方などについて,私の考えを述べたいと思います.
 コンピュータ関連技術の急速な進歩によって,放射線科領域の画像のほとんどが,現在はディジタル化できるようになっています.また,ネットワーク技術の進歩により,PACS(picture archiving and communication system)に代表されるように,画像の通信や保存の方法が大きく変化し,病院内はもとより遠隔地からでも容易に画像を転送して必要な場所で表示できるようになってきています.これからも,ネットワーク技術は進歩を続けるでしょうから,画像表示の利便性やデータベースとしての画像データの共同利用は進むと思われます.このようなネットワークを介した画像の通信と保存はディジタル画像の大きな利点ですが,さらにディジタル画像は画像診断の精度を直接高めることに役立つことが明らかになりつつあります.つまり,ディジタル画像の持つ情報をコンピュータを用いて分析し,その分析結果を“第 2 の意見”として医師へ提供することです.医師はコンピュータの分析結果を参考にしながら,自分で最終的な判断をしますが,見落としや思い違いを防ぐことが可能となり,その結果,診断の精度や再現性を改善することが可能となります.このような手法はコンピュータ支援診断(CAD)と呼ばれています.
 CADはこれから先しばらくの間は,放射線技術学のなかにおける主要なテーマの一つになると予測されています.これまでに世界中の多くの研究者から,CADの明るい未来を示唆するような研究結果が発表され,また,乳房画像や胸部画像に対するCADシステムは米国食品医薬品局(FDA)の認可が下りて,メーカによる商品化も始まっています.しかし,CADが対象とすることの可能なモダリティ,撮影部位および病巣は非常に多く,これからの研究開発が大きく期待されています.このような状況のなかで,気がかりな点が一つあります.それは,CADの研究開発を行っている放射線技師の方の数が少ないことです.CADの研究には医師と技術者とが協力して取り組む必要があります.放射線技師の方は医師と同じ施設で働いている場合がほとんどですから,医師と協力関係を結ぶ機会が最も多くあると思われます.しかも,今から放射線技師の方がCAD研究に取り組まないと,CADの実用化研究の速度が鈍る恐れがあると同時に,研究開発の主導権を握れなくなる心配があります.したがって,画像分科会として多くの会員がCAD研究を開始できるような企画を組みたいと考えています.
 CAD研究には次のような知識や能力が不可欠のように思えます.
  1. コンピュータ・プログラミングの知識
  2. ディジタル画像処理の知識
  3. 医学的知識
  4. 科学的判断力

 放射線技師の方は非常に豊富な医学的知識を持っていますが,道具であるプログラミングや画像処理に関してはこれまで経験してない方も多いようです.このことがCADの研究を開始する妨げになっている理由の一つだと思われます.しかし,プログラミングや画像処理技術は,短期集中で学習すれば,誰でもある程度のレベルに必ず到達します.後は,研究と平行して必要な知識を勉強していけばよいと思います.そこで,コンピュータ・プログラミングの学習を助けるためのプロトコルを画像分科会から会員に示す予定です.そのプロトコルを基にして各地域,または,各施設でプログラミングの学習をしてもらえればと思います.さらに,これまで以上にCADセミナーを充実させ,CAD技術に直接関係した画像処理やパターン認識技術などの講習を行う予定にしています.また,CAD研究を成功に導くには,知恵を絞りながら,有効と思われる複数の方法を組み合わせて使う必要があります.そこで,効果的な方法の選択には,冷静で客観的な科学的判断力が,他の研究分野と同様に要求されます.さらに,医師の“画像診断”という知的行為を,技術的な観点から理解することが,役に立つCAD技術の開発に必要です.したがって,医師と密接に連携した協同作業が重要だということがこのことからも理解していただけると思います.
 画像診断に直接寄与することのできるCADの研究開発に,放射線技師の方たちが中心的な役割を担えるように,画像分科会は最大限の努力を行う予定です.放射線技術学会の会員の皆さんも,この機会にCADに関心を向けて,まず,身近な問題からCAD研究を始められることを期待します.(画像分科会長)