JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2002; 58(3)
第58回日本放射線技術学会総会学術大会開催にあたって
中西省三 

 日本放射線技術学会第58回総会学術大会を神戸市の神戸ポートピアホテルを中心に開催します.
 20世紀の科学至上主義,いわゆる強者の理論の行き詰まりから,現在は人間を中心にした,多くの人が参加できる新しい寛容な価値観の創造が求められてきております.民族対立,南北問題,宗教対立,強者と弱者の共存,環境問題等,人間の活動そのものを問い直さねばならない時代がきているのです.
 医療界に目をやれば,医療費の高騰・医療の格差・人間に適した医療等が叫ばれており,さらに先端技術の急激な発展からこれまでの医療技術が大きく見直されようとしております.今大会はこのような息吹を受けて大会のメインテーマを[New Horizon of Radiology in 21st Century;放射線科学の新世紀を求めて]としました.
 また,20世紀には,人間が自分で処理できない物(例えばPCB)を創出し,その恩恵は享受できたものの,他方,それが持つ影響に考えが及ばなかったことに対する反省が求められているのです.それはまさに人間は過ちをおかすことがあり,また,時の評価は排他的でもあり,そして変化するものだということなのです.
 同じ諸刃の剣である放射線を人間の健康維持のために役立てたいというのは,私どもの学会の設立理念であり,その達成に向けて信頼の放射線診療を確立するべく今まで取り組んできているわけです.今後とも取り組みの足軸をブラさないように,同時に技術だけが一人歩きしないように,患者さんを見据えて皆がしっかりと受け止められる技術であるように,あえて「人と技術の共生を求めて」を日本放射線技術学会第58回総会学術大会のサブテーマにあげさせていただきました. 新世紀を,心新たにして新しい価値観の創造の好機として受け止めたとき,人間としての患者さんと最新技術の結晶である検査・治療装置の間を取り持つ診療放射線技師が取り組むべきことはたくさんあるのです.そのなかには,それぞれの検査・治療装置に用いられている医用工学技術の有効性・安全性・信頼性・経済性の医療現場におけるしっかりした評価ができることも当然のことですが,何よりも大事なことは安全が保証されていることであり,信頼される画像情報を提示することでありましょう.患者さんにとっての安全,操作者にとっての安全,環境や社会的な安全(悪影響を及ぼさない)について,医療の質ということも含めて,もう一段,深く掘り下げて取り組む必要があるのではないでしょうか.
 さて第58回総会学術大会での特別講演は安藤忠雄先生にお願いしました.今大会の超目玉ですが,既成概念の打破,果敢なチャレンジ精神という先生の姿勢は,窒息気味の科学芸術分野に清涼の一風のごとく私たちにも刺激を与えてくれるものと思っております.また,企画には最新の技術・情報を共有するために,1)最新技術,2)知って欲しい画像診断,3)リスクマネジメント,の三つの柱を立てました.
 1)については特別講演に「埋め込み型人工心臓」,米国での「放射線治療・計測技術」の二つを,シンポジウムにはフラットパネルと各モダリティにおける血管描出技術の二つを企画しました.2)では人体各部の画像についてと,21世紀は心臓疾患克服の時代であるととらえ,各モダリティにおける最新技術を教育講演 9 題で,さらにそれぞれの分野の第一人者の方に装置の将来展望をランチョンセミナーで語っていただきます.3)については現在もっとも重要課題としてとらえられているリスクマネジメントについて,特別講演に阪大病院 でゼネラルマネージャをなさっておられる中島和江先生をお招きし,またシンポジウムにも 1 題企画いたしました.このほか,急速に変わりつつある診療放射線技師教育の一端を知ってもらえるよう卒業論文を発表してもらうなど,会員と教育機関・学生がより身近に親密になれるよう企画してみました.「鉄は熱いうちに打て」といわれるように学生のフレッシュな目と熟練した技術が交流し,連続した環境が保てるようにと考えました.また,日本医学放射線学会会長の山田龍作先生も小生も,両実行委員長も血管造影検査分野の出身であり,心臓移植のメッカとなりつつある大阪で身近でホットな技術として,IVR技術と心臓疾患を隠れた共通のテーマとしておりますのでご期待ください.
 大会の国際化は次回に譲り,海外招待講演を減らし国内の若手を対象としたフレッシャーズセミナーや教育講演を多く企画し,明日に繋げる学術大会を心掛けましたので皆様の多数のご参加をお待ち申し上げております.
(第58回総会学術大会大会長)