JSRT 巻頭言 | Jpn. J. Radiol. Technol. 2002; 58(9) |
第30回秋季学術大会の成功を祈念して
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小松明夫 |
(社)日本放射線技術学会第30回秋季学術大会は,平成14年10月17日〜19日の 3 日間,島根県松江市において開催されます.宍道湖に面し,そして堀川が巡り「水の都」と称される松江市は,その郊外に古代出雲の香を色濃く残し,また,市街地は城下町の風情を漂わせ,古代から現代まで凝縮された歴史を観ることができる町です.この町で先端医学,医療の一翼を担う本学会の大会が開催されることは,大都会で開催される場合と比べ,来る人,迎える人それぞれにとって意味合いが違うものと思いますし,より意義多きものとなることを願っています.この地域で全国大会が開催されるのは昭和44年(米子市)以来のことと聞きましたが,松江市は30余年前と極端な変化をすることなく,当時の暮らしを今に残していると感じさせるところがあります.皆様も時間が緩やかに流れるこの町でご自身の過去と今を検証し,創造の糧としてみてはいかがですか. この地方では10月(神無月)を神在月といい,全国の神様が集まる縁起の良い月でもあります.だからという訳ではありませんが,実行委員会では少し欲張って出雲地方と最先端をゆく学会の融合「出雲を魅せて,最先端を感じたい」をどう具現化するかを考えました.その思いを特別講演に込め,杉村和朗先生(神戸大学教授),木原明先生(国無形文化財)のお二人にお願いし,その講演名として「磁石が変えた放射線医学」と「たたら製鉄の技と精神(こころ)」をいただきました.先の融合・・云々は,言葉の遊びの域を出ていなかったのですが,いただいた講演要約を見ていると妙に符号していることに私は気付きました.狙った訳ではないのですが,どちらも「鉄,切れ味」をイメージさせます.磁石はもちろんMRIに使用され,粒子線や放射光まで結び付いて画像診断や治療の最先端を担い,鋭い切れ味を持っています.たたら製鉄はご存じのことと思いますが,日本刀の原材料となる玉鋼(たまはがね)を精製するもので,それこそ切れ味を左右します.この時代を隔世した二つの講演に,イメージされる切れ味を,その技術を弛まぬ努力で進化させ続けているという,大きな共通項をみることができたのです.私はこの共通項に私たち放射線技術を学ぶ者の原点を感じます.このことは大会テーマ「2002 Radiology Innovation 新呼吸!! 放射線技術の検証と創造」と通ずるものであり,今,問われているEBM創出の力の源泉であるともいえます. 話は変わりますが,最近よく耳にする言葉としてディスクロージャ(情報開示)アカウンタビリティ(説明責任)前述のエビデンス(科学的根拠)があります.言葉としてそれぞれ意味は分かるのですが,実践となると難しいことと皆様も実感されているのではないでしょうか.しかし,社会の急速な変化,価値観の揺らぎのなかでこれらのことは重要なキーであり,また,避けて通れません.これらは放射線技術学会員の多くが所属する医療機関においてはなおさらで,患者取り違え手術事件以後,次々と医療事故が公にされる事態は,社会が持ち続けていた医療への不信が一気に吹き出た感があり,最近では医療機能不全を招き兼ねない状態までになっています.数々の事例で感じるのはやはり責任の希薄さであり,情報の取り扱いの稚拙さですが,危機管理を間違った方向で強調し,反って医療従事者の士気の低下,創意工夫がなくなる側面が垣間みえるのは私の危機意識の幼稚さなのでしょうか.危機管理はそのなかに「守る」という視点が正しく組み込まれることが重要で,上下関係の管理との綯い交ぜではなく,一線を画した体制の構築をすべきと考えます. 医療事故はその一方で「医療の質」を私達に問いかけています.大会テーマに「検証と創造」の言葉が使われています.これ自体はありふれた言葉ですが,医療の質を担保する基本はやはりこれの繰り返しでしかないと考えます.この行為は本来地道で時間もかかるものですが,現状では医療が社会から信頼を取り戻すためにスピードが要求されています.そのためには私達の持っている知識,情報を集団のなかで速く伝え合う必要があり,しかも良質な情報を必要とすればするほどお互いを知り,信頼関係を築く必要があります.この関係の構築こそ学会の持つべき機能であり最大の責務であると私は思います.学術大会はその入口として重要で,その目的は「個の存在を知ってもらうこと,そして知ること」にあると思います.まず,顔を合わせ知り合うこと.私は古いのかもしれませんがそれが大事なことだと思い,本大会会場にかなり広い「談話=交流スペース(情報プラットホームともいっています)」を設定しました.ここで発表後,幾人かで討論をしている姿を是非見たいと願っています. 最後に,秋季学術大会が地方都市松江で開催されることの意義,それを端的に表現する言葉は「刺激」であろうと思います.最も大きな刺激を受けているのは私自身なのですが,参加者にとって特に地域の会員にとって大会が刺激的であって欲しいと願っています.その意味として,第一は中央と地方の情報格差の認識です.第二は思考回路さまざまの多くの優れた人々の存在を認識することです.これらの認識は必ず個々の行動力を喚起するものと信じます.大会の成功はすべての人の協調によって達成されますが,その成果は参加する個人の感性によって違いを生じます.松江は感性を高める面では最適の所です.大会が実り多きものになることを祈念し,かつ期待し皆様のご来松をお待ちします. (第30回秋季学術大会大会長) |