JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2003; 59(2)
学生の学会参加
八木浩史 

 最近,学会に参加すると団体で行動している学生と学生の発表が目につくようになってきました.学会員の減少が心配されている現在,非常に頼もしいことと思います.
 学生を引率したり発表させたりする側からは,私事ではありますがかなりの負担であることも事実です.
 学生の学会登録料は学生証を提示すれば無料ですが,交通費や宿泊料などは必要ですから,これらの負担をいとわない学生,さらには全く初めての経験になるであろう学会発表をしてみようという行動的な学生を見つけることはなかなか大変なことです.そのような学生が名乗りを上げると次に研究テーマを見つけ,そのテーマに興味を持たせなければなりません.最近の学生は,自分でテーマを見つける,あるいはテーマを絞ることは苦手な反面,興味のあるテーマでなければ熱中しないという傾向がみられます.どのようなテーマを選択するかは研究指導者によって異なると思います.指導者によっては,長いスパンの研究の一部を卒業研究生にテーマとして与える場合もありますが,私の場合,学会発表を希望する学生には卒業研究期間中にできる限り結論の出るテーマを選択しています.その理由は,学会発表が初めての学生にとって,研究のはじめから結論までを理解した研究が学会発表をするために都合がよいと思うからです.しかし,毎年のこととなると,このような研究テーマを探すことはかなり困難であることも事実です.しかも,3 年制あるいは 4 年制の養成機関では,最終学年が卒業研究の学年であることが一般的です.しかも,研究期間は,実質,半年程度であることが普通です.発表の場となる学会は春の総会,秋の学術大会,そして部会によって開催時期は異なりますが部会学術大会などです.春の学会は,研究は完成し,発表させるにはよい時期ではありますが,学生はすでに卒業しているので,学会発表をさせるためには就職先の許可を得る必要があります.その点,秋の学術大会は少し無理をして研究をさせると都合のよい時期です.しかし,演題申し込みの 6 月頃は研究を始めて約 1 カ月後ですから,かなり先の読みがないと演題申し込みがしにくい時期でもあります.この演題申し込みの時期に関しては理事会でも議論されたことがありますが,現時点では結論が出ていません.秋季学会の開催時期を今より遅くすることも考えられますが,これ以上遅くなると学生は就職試験や国家試験の準備で参加できなくなる可能性が大きくなります.このような状況で学生に十分な研究をさせ,安心して演題申し込みをさせるにはカリキュラム変更(3 年制では 2 年生の後半,4 年制では 3 年生からの卒業研究の開始)など,養成機関の協力が必要ですが,演題申し込み時期の考慮など学会としても学生が参加しやすく,学会発表がしやすい,学会運営について考えるべき点が多々あると思います.
 このように学生に発表させるためにはかなりの問題点はありますが,発表後の学生の晴れ晴れとした顔を見ると,来年もと思うのも事実です.学会発表は学生にとってもかなりのメリットがあります.一番大きなことは,いろいろな人を知ることができることです.研究は学校の装置のみではできない場合が多いので,先輩の施設を訪ねて実験をさせてもらう機会も多く,その際,先輩を知ることはもちろん,カリキュラムに組み込まれた臨床実習施設以外の臨床現場を知ることもできます.学会発表の前には予行会を開きますが,その時,時間に余裕のある近隣の先輩も出席し,いろいろなアドバイスをしてくれます.また,臨床経験のある先輩との討論を通して講義でしか知らない知識を実感して,より深く身につけることができます.同じ内容でも違う言葉で指導者以外の方々から教えられると理解が深まるのも事実のようです.当然のことながら,自分の述べたいことを端的にまとめる訓練もできます.学会中に開催される懇親会に出席するのも学生にとっては楽しみな行事の一つです.懇親会に出席すれば,普段はお目にかかれない先輩,論文や教科書でしか名前を知らない方々にお会いでき,さらに懇親会場では,このような方々ともお話することができます.このような人との出会いは学生にとって,何物にも代え難い経験だと思います.
 このように学会参加,学会発表を経験した学生は,卒業後も学会に残り,就職先の状況にもよりますが,学術大会に参加する回数も多く,さらに研究を進め,学会発表も多いように思います.
 学生の学会参加と学会発表について述べてきましたが,学会発表に至る方法は若い会員にとっても同じだと思いますし,臨床現場には研究テーマがいくらでもあると思います.臨床業務をしながらの研究,学会発表は大変なことと思いますが,先輩方の協力の下に,できる限り若いときに学会に参加をし,学会参加の楽しさを知ってほしいと思います.学会場あるいは懇親会場に学生や若い会員の声があふれる日が来ることを期待しています.(理事)