JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2003; 59(6)
インパクト ファクター
木村千明 

 東京商工会議所が今年 4 月の新入社員を対象に実施した意識調査によると,理想の上司のトップは,北野 武さんで「多様な分野で能力を発揮するなどの点で強いあこがれがある」と分析している.また,新入社員が上司に求めている項目としては 1.人間関係を重視する,2.仕事をよく指導してくれる,3.業務を正当に評価してくれる,の順である.
 この記事から本会運営に望まれることは,関連学協会への「インパクト」,そして会員の要望は,2 番目の「仕事の指導」であり,「基礎」を充実させた実務に役立つ事業を,春秋の学術大会はもとより,分科会・地方部会との連携事業のなかに盛り込み,そして身近な学術活動ができることであると考える.
 リクルートワークス研究所が 4 月14日に発表した大学生の就職志望企業調査では,1 位,JTB,2 位日本航空グループ,4 位全日本空輸,など運輸,旅行業界の人気が高かった.この高人気の要因としては,全日空を舞台にした木村拓哉主演の人気ドラマの影響が大きいと分析している.ただ,大学生と理工系が主体となる大学院生とは志望企業が異なり,大学院生の場合,1 位,トヨタ自動車,2 位ホンダ,3 位ソニー,4 位キヤノン,等々メーカ思考が強く,野村総研,三菱総研といったシンクタンク 2 社も10位以内に含まれていたが,大学生思考とは異なった志望であったと報告されている.
 本会の発展に望まれている課題は「魅力ある学会」であるが,今後学士以上の会員増が見込まれ,本会の意識焦点設定の難しさを物語っている.本会の目的は,放射線科学技術を研究・発展向上させることであり,そのためには何をすべきかに焦点を合わせればよいと考える.
 「プロジェクトX」というNHK TV放送は,テーマソングである中島みゆきさんの「地上の星」もさることながら,種々な分野の成功のご苦労を証言する興味深い番組であるが,その映像から受ける視聴者の「影響度」「衝撃度」については,かなりのものと推定される.
 プロジェクトXは,われわれが知り得る結果のみでなく,その経過を端的にドラマ化したもので,画面からその苦労がしのばれる.放送される事例は,いろいろな意味で競争に打ち勝った事例である.その結果として,放送された内容の事例が,より一般的に社会で認知され認識されることとなるのであるが,ある事業に対しては,マスコミに視聴者の興味をそそるものとして,よく扱われるが,学術団体である本会のような場合,まずは,関連学・協会に正当な認識を持っていただくことが先決であると考える.
 4 月 9 日(水)中日新聞朝刊に掲載された記事を読まれた方も多いと拝察するが,米学術情報会社ISI(Institute for Scientific Information)の日本事務所が,最近11年間に国内研究機関が発表した学術論文が,世界で他の論文に引用された回数のランキングを 4 月 8 日に発表した.国内総合 1 位は東大で58,000の論文を書いて,引用数は610,000,世界での順位は16位,ついで 2 位が京大,世界順位30位,3 位が阪大,世界順位36位等々であり,日本の総合順位 5 位までは,世界のトップ100にも入っている.特に分野別では,東大の物理学と東北大学の材料科学は世界ランクも 1 位で優れた研究が多いことが数字で裏付けされた.
 論文は,引用される回数が多いほど重要度が高いとされ,いわゆる科学論文のImpact Factorとして使われている.
 このImpact Factorという用語は,窪田輝蔵 著『科学を計る』(インターメディカル)によると,Garfield Eが,情報から科学を,科学から情報を取り出すISI企業を設立し,自然科学における索引誌SCI(Science Citation Index)を刊行し,核当する雑誌の年間掲載論文で同期間中の全被引用数を割って,その雑誌に掲載された各論文あたりの計数を算出し,これをImpact Factorと呼び,「雑誌の単位記事当たりの引用比率」番付表にしたものである.すなわち,科学者が雑誌を読むのは,新知見を得,自分の研究の参考にし,得られた情報をもとに新たな実験をし,ついには自分の研究成果を論文なり本にして発表するためである.文献引用は,実験法や分析法,同定法等の方法論を先人の研究成果をもとに,自分の研究の無駄を省く最良の手段である.その情報収集として,「メドライン」「カレントコンテンツ」が最有力で,本会の雑誌も昨年,本会誌出版社「メディカルトリビューン社」のご尽力と編集委員会の努力によって,アメリカ医学図書館作成の医学,薬学,生物学などの論文情報を集めたオンラインサービス用データベース「メドライン」に採用されたことは,とりあえず科学雑誌界の「土俵には乗った」こととなる.
 昨年,将来構想特別委員会から答申された貴重なご意見を実施発展させ,温故知新をもとに新しい息吹を放射線医療ばかりでなく,社会に対していかに良いインパクトを与えていくことができるのかは,会員各位のご努力とご研鑚次第であり,私ども役委員は,会員各位の各種研鑚をしやすくし,そしてその努力結晶に対して関連学協会あるいは一般社会から正当な評価が得られるよう環境整備・企画運営に鋭意努力することと考えます.会員各位の一層のご理解・ご鞭撻をお願い申し上げます.
(総務理事)