JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2004; 60(5)
現行の法規制に捉われない放射線技術学の展開
真田 茂 

 例えば,“医用画像の撮像法に関する研究”は放射線技術学の範疇にもちろん入ります.それでは,“医用画像の読影法(あるいは診断法)に関する研究”はどうでしょうか? 私は,このテーマも放射線技術学における重要な研究領域であると考えます.なぜなら,適切な放射線技術の実施のためには,撮像された画像中の診断情報を的確に理解することが極めて重要であるからです.“読影や診断は医師だけがするもの”という古い不文律があることも否めません.しかし,自らが実施した技術の本質的な内容を検証することは,高度専門技術者の最も重要な使命の一つです.
 従来,医師が行っていた画像所見レポートの一部を診療放射線技師が行うことについても,既に欧米では議論が進められています.本学会でも,スーパーテクノロジスト認定制度の確立に関連して,その議論は不可欠だと考えます.今後,特に日本医学放射線学会との協議は必要ですが,診療放射線技師がsecond opinionとして医用画像を読影するような日も早晩来るでしょう.
 さて,放射線技術学の舞台となるのは保健,医療,福祉です.この領域はその業務の危険性から国民をまもるために,専門家ごとにそれぞれできることとできないことが法によって明確に規制されています.しかし,放射線技術学の主な担い手が診療放射線技師であるからといって,放射線技術学の範囲が診療放射線技師法に沿って制限されるものでは決してありません.新しい技術体系の発展や専門分野の構造改革に伴って,専門業務の内容も変化せざるを得ません.その変化に先んじて,合理的に専門分野を広げたりそのレベルを高めたりするための組織的な努力が,当該学問領域の教育・研究において重要です.
 冒頭の件ですが,“今まで医師が行っていたことを診療放射線技師が肩代わりする”という程度の考えでは,放射線技術学の新たな展開は望めません.“撮像過程と画像処理過程のすべてを知る診療放射線技師の視点から,責任を持って,医師には到底出せなかった新たなタイプの有益な画像所見を出す!”という姿勢で取り組んでこそ,初めて放射線技術学の画期的な展開が期待できると考えます.既に,放射線技術学の教育現場はそのような責務を全うできる人材の育成に努力しています.また,診療放射線技師と放射線科医の新たなコラボレーションによる上記のような放射線医療の実現について,放射線科医が先導して企画している臨床現場を筆者は知っています.
 国民および関連学協会の信頼と付託を得ながら,放射線技術のあり方を変革するためには,本学会の強い意思と学術的基盤のさらなる整備が不可欠です.放射線技術学という学問,日本放射線技術学会,および会員各位が,今ほど社会に試されている時期はないと考えます.
 本稿では画像診断技術分野に関して例示しましたが,他の放射線技術学領域でも上記と同様なことが言えます.なお以上の記述に関して,本誌2004年 1 月号(第60巻 1 号)の新春座談会および第89回北米放射線医学会(RSNA2003)における特別セッションの要旨を参照いただけましたら幸甚です.
(理事)