JSRT 巻頭言 | Jpn. J. Radiol. Technol. 2004; 60(8) |
IT革命と学会
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菊池 務 |
バブル景気後の不況は民間設備投資額が一昨年より増加傾向に転じるなど,今年度に入って全国的には強い回復の兆しが見え始めている.しかし残念ながら北海道は1997年の北海道拓殖銀行の経営破綻が大きく影響し,行政や地元経済界の懸命の取り組みにもかかわらずその回復が極めて立ち遅れている. こうしたなか,道政の北海道活性化懇談会では「活性化に必要な施策」として社会資本整備の一つにIT革命に対応した社会資本の高度化の必要性を重点策に取り上げている.これらは地理的制約を解消する価値の高い社会基盤となるとともに,産業クラスターを形成するために必要な研究開発は地理的制約を全く受けない無形の財産を形成する.幸い北海道はその歴史が語るように,フロンティアスピリットを持つ人間が日本全国から集結した土地柄であり,ISDNの普及率が全国 1 位であることでも証明されるように社会基盤を形成する際に必要なITに対する関心は大変高い. しかしながら私は次のような懸念を抱いている.高速インターネット接続を配備することはIT革命実現のための確かに必要なインフラの一部ではあるが,「それをどのように活用するかについての十分な議論が行われていないこと」が課題のまま残されているのではないか.例えばインターネットを小中学校にまで配備しても,どのような理念のもとにどのようなカリキュラムで教育するかが大切であり,メールの利用方法をマスターしたからといって情報リテラシーが身に付いたというわけでは決してない. より多くの国民がインターネットを使うようになることが,IT革命であると豪語する人もいる.インターネット利用者が米国と比べて少ないことが,ITにおいて米国に水をあけられた原因だともいわれているが,果たしてそうだろうか.わが国におけるインターネット利用者の割合は,20代,30代の世代においては米国よりも高いという統計もあり,更に携帯端末からのインターネット利用は群を抜いている.このことから考えると,より多くの人々がネットワークを利用するようになるには,「皆が使って本当に便利で効率的であり,楽しく親しみやすいサービスをどんどん提供していくこと」が肝要であり,通信利用料金にすべての原因があるかのように議論されるのは多くの異論がある. 近年は数多くの組織,会社,機関,個人や学会などがホームページを創設し,会員,構成員,社員を始め世界中の人々からのアクセスを得るべく努力をしている.しかし一部の商業系,情報通信系を除いて十分な利用度が得られず,瓦解していく例も少なくない. 北海道部会でも従来から部会ホームページを開設し,あるいはメーリングリスト班を立ち上げて年 2 回の会報発刊を補いながら会務運営のスリム化を図り,会員へタイムリーで詳細な情報を直接届けるメールシステムを新設した.会員の利便性を図り,更なるITサービスの充足を目指してきたが,残念ながらアクセス数,メーリングリストへの会員ID登録数も十分とはいえない状況が続いている. その反省点として「これらITサービスの推進に『お仕着せの姿勢がなかったか』,また『進んで使ってもらえるような真に便利で親しみやすい“ユーザフレンドリイなインターフェース”を持ったサービスの提供』を心がけてきたのか」,今一度初心に帰って検討が必要と総括しているところである. そしてこのIT革命に関する問題は本学会全体として,今まで以上に「どのような理念のもとにどのようなITサービスを提供することが望ましいのか,率先してITを学会活動に活かすための方向性とその施策を検討すること」が必要と考える.あらゆるものがグローバル化する21世紀にあって,学会だけがその埒外にいられるわけはない. 米国のある学会の未来予想では,「研究者達は最もホットな情報はその専門分野のメールグループに参加し(そこには論文誌に投稿する前の今生まれたばかりの情報が溢れている),しかもそこでは多くの研究者達が大会や研究会に参加するより遙かにエキサイティングな議論が頻繁に行われるため,一流研究者達は自分の研究領域の優れたメールグループに参加登録することが必須となる」と予想している. 学会の力は情報発信力,それも他人の情報ではなく「自分達で(会員の総体として)クリエイトした情報の発信能力」である.近い将来,学会ITサービスを通して本学会の保有する知識の総体(すなわち会員の有する知識の総体)を有機的に結合し,リンクを張り,それにアクセスしやすいポータルサイトを構成して,放射線技術の新しい検索には,まず本学会のポータルにつれてくることを可能としたい.(理事) |