JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2004; 60(11)
CADセミナーからCADの研究へ
桂川茂彦 

 2001年の本誌(Vol. 57,No. 12)の巻頭言で,私は“CAD研究を始めよう”と題して,放射線技師によるコンピュータ支援診断(CAD)の研究の必要性を述べ,研究を始めてほしいことを訴えました.それから 3 年,学会でのCADに関する発表や,学会誌での発表が増えた事実からも,放射線技師によるCADの研究が増加していることが分かります.しかし,増加の程度は,3 年前に私が期待していたよりも低く,もっともっと多数のCADの研究が行われることを期待しています.
 前回も述べましたが,CADの研究には,次のような知識や能力が必要とされます:(1)コンピュータ・プログラミングの知識,(2)ディジタル画像処理の知識,(3)医学的知識,(4)科学的判断力.このなかの(1)と(2)の知識の習得をサポートするために,学術委員会および各地方部会との共催で,画像分科会はCADセミナーを開催してきました.今年で16回を数え,通算すると約400名の会員が,セミナーを受講したことになります.最近のCADセミナーは年に 3 回開催され,そのうちの 2 回は初級編で,プログラミングの経験がない会員を対象に,C言語と画像処理の基礎を演習で学びます.また,他の 1 回は中級編で,初級編をすでに受講した人を対象に,CADの基本的なアルゴリズムを演習しています.また,CADセミナー以外でも,地方部会の講習会や,あるいは,ネットワークを利用したセミナーなどで,多くの会員がコンピュータ・プログラミングの知識や技術の習得に励んでおられることを知っています.
 このような努力の結果,プログラミングや画像処理を,ある程度行えるような会員が増えてきているのは事実なのですが,そのことが直ぐにCADの研究に結びついていないのも事実です.それには,さまざまな理由が考えられるのですが,CADの研究テーマを見つけ出すのが困難であることも,一つの理由になっているのかもしれません.初めてCADの研究を始める場合には,適切なテーマを選ばないと,直ぐに挫折してしまったり,あるいは,時間がたってから大きな後悔をしてしまうかもしれません.
 すでにCADの研究を始めている人が近くにいれば,相談したり意見を求めるのが最も早い方法です.また,自分の周りにいる医師に相談するのも一つの有力な手段です.その場合,CADの概念を医師にできるだけ分かりやすく説明し,自分が所属する病院で症例が集まりそうな疾患について,CAD研究の可能性を相談すればよいと思います.CADに興味を持つ身近な医師を見つけることは,研究のテーマを見つけるのと同等くらいに重要です.それには,数回の会話ではなく,医師の時間の許す限り日常的にCADに関する話を持ちかけたらよいと思います.そうやって,熱意を示すことで,お互いの信頼関係が結ばれて,すばらしい研究に結びつくのだと思います.
 初めてテーマを選ぶときに,今までに研究がされていない新しい対象やモダリティだけを選ぶのではなく,すでに他で研究はなされているが,臨床的に重要な疾患についても選んでよいと思います.胸部単純写真やCTにおける腫瘤影や,マモグラフィの微小石灰化や腫瘤影など,すでに研究されている疾患は,臨床的に非常に重要です.したがって,これまでに,いろいろな重要な方法が試されてきました.研究を最初に始めるときには,これらの手法を,まず,追試してみることです.そのうちに,自分なりの発想が湧いて,新しい手法や,他の疾患を対象とすることが可能となってきます.
 CADの研究でもそうですが,他の分野の研究でも,これから自分が行おうと考えている未知の領域に関する他人が書いた論文などを読むと,非常に高度なことが書かれていて,突き破ることができないような大きな壁を感じることでしょう.それは未知の分野ですから当然で,誰しもが感じることです.論文を読んでばかりいては,この壁は乗り越えられません.勇気を持って 1 歩を踏み出すことです.この第 1 歩を踏み出せるようなサポートを,画像分科会でもこれから考えていくつもりです.そのためのCADセミナーも,検討していきたいと思っています.(画像分科会長)