JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2004; 60(12)
組織に思う−弛みのない前進のために−
真田泰三 

 年の瀬を控えたこの時期を迎えると,1 年間の出来事が自然と頭をよぎっていく(とはいっても,原稿締め切りのため10月末までのことであるが).今年は数多くの台風や地震など自然災害の多かったことが印象に残っている.上陸した台風は計10個となり,年間上陸個数の記録を更新した.いずれも大型で勢力も強く,各地に甚大な被害をもたらした.一方,新潟中越地震は規模の大きさ(M6.8暫定)に加えて大雨の影響もあり,被害の範囲や程度も拡大されたようであった.余震も続き,被害の影響は長期に及ぶことが懸念されている.会員の皆様のなかには,被害を被られた方もおられたのではないかと案じている.被害を受けられた方々に心からお見舞い申し上げますとともに,早期の回復,復旧を祈念しています.
 これらのほかには,「日本学会事務センターの破綻」の報道が特に心に残っている.多数の学会の事務作業(会費徴収や会報発送など)を代行していた日本学会事務センターという法人が,各学会からの預かり金を流用して会計的に破綻し,裁判所から破産宣告を受けたものである.これにより,法人に事務代行を依頼していた約270の学会は,約 8 億円に上る資産を回収できなくなった.これらの学会の将来がどうなるかは今後の問題であるが,詳しい報道もなく不明である.各々の学会にとってはまさに晴天の霹靂であり,死活問題であろう.この背景には,会員数が少ないため,会費徴収などの事業を独自に運営できない多くの学会の存在がある.
 当学会は,古くから学会事務所を独自に所有し,事務作業も他者に依存することなく健全な運営を継続しており,このような事件に影響を受けることはないと思う.当学会がこの種の事件に対して安心していられるのも,現在のような組織を構築されてきた多数の先輩諸氏の英知,努力の賜物であり,深く感謝するものである.
 さて,この期に学会の組織について少し考えてみる.学会の目的は定款に定めるように,「放射線技術学に関する研究発表,知識の交換ならびに関連学協会との連絡提携を図り,もって学術の進歩発展に寄与すること」である.この目的達成のために,6 項目の事業(研究発表会などの開催,学会誌などの発行,関連学協会との連携など,研究の奨励や実績の表彰,研究調査や開発など,その他必要な事業)を行っており,各事業を遂行するために組織が編成,構築されている.
 放射線技術学の関係する医療界では,新しい概念や技術が加速度的に開発され,遺伝子医療や再生医療などの全く新しい分野も次々に構築されてきた.また,医療界は世界の経済情勢に曝され変化の著しい分野でもある.放射線医学や放射線技術学の範囲も,エレクトロニクスや周辺技術の変化に伴い,驚異的な速度で大きく発展し拡充してきた.また,社会の変遷に対応し学会の充実やレベルアップも要求されている.さらに,学術団体としてのパブリックコメントの応答要請なども増加している.これらの変化や要望あるいは外部からの要請などを受けて,事業の見直しが常に求められ,行われてきた.新しい医療情報分科会の設置や英文誌の発刊,電子ジャーナルの拡充の検討,あるいは,スーパーテクノジスト制度の検討などがこれらに該当すると思われ,これらの事業形態の変更に合わせた組織の見直しも必要となってきた.
 組織の変革はともすれば拡張の傾向を伴いがちであり,将来の学会の財政を圧迫することが懸念される.財政負担を軽減する組織改変には,以前から提唱されているスクラップアンドビルド方式が最適と思われる.現存の組織を改組,縮小,統合あるいは廃止し,新たな組織を立ち上げるものである.今年度から常務理事会が廃止され,新たに運営企画会議が発足したのはこのよい例であり,執行体制の機動性の強化が期待されている.
 しかし,スクラップアンドビルド方式においても,整理すべき組織の選別や改変の形態などに難問も多く,合意形成に時間をとられがちである.事業形態の変革に歩調を合わせなければ,事業変革の速度を鈍らせる恐れもある.各事業の遂行と組織編成は密接な関係にあり表裏の関係ともいえる.新しい事業形態を推進させ成功させるうえでも,また,学会の弛みのない前進のためにもタイムリーな組織の見直しが重要と思われる.
 さて,今まで述べてきた組織は,学会運営あるいは事業執行の組織であった.これとは別に,学会を構成する会員組織が考えられる.会員は学会の目的に賛同し入会したものであり,会員自身が学会組織の一部といえる.会員の理解と支持がなければ運営組織も円滑に機能しないことは明白である.社会の要請や学会内部からの要望により学会の事業形態が見直されている今,運営組織の変革と同時に,会員の意識改革も求められていると思う.一層のご理解とご協力をお願い致します.(理事)