JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2005; 61(2)
関連 3 学会における放射線治療専門技師認定機構の設立について 
熊谷孝三 

 放射線治療分野において放射線技師に関係するさまざまな認定制度が構築されています.すでに放射線腫瘍学会の放射線治療認定技師,放射線技師会の放射線治療技能検定,本学会のST(スーパーテクノロジスト)制度放射線治療専門技師,関連 5 学会による放射線治療品質管理士が存在しています.これらは,目的に若干の違いはあるものの類似した制度と言わざるを得ません.放射線治療技師の専門認定制度化の必要性は頷けますが,多すぎる感は否めません.
 放射線腫瘍学会の認定技師制度は,わが国において最初に構築され,放射線治療技師の高度な専門性を強調したことは特筆すべきことであります.その後,それぞれの学会等で制度化のさらなる構築に向けて大きく動いてきました.これらのゴールは,最終的に放射線治療レベルを向上させ,患者に対して最適な診療を提供することであります.しかしながら,このままでは何をするにしても技師の英知を結集した力は分散され,民意の総意は得られないことになります.
 最近では,放射線治療の事故が立て続けに報道され,放射線治療に対して国民の高い関心があるにもかかわらず,不信感がもたらされてしまいました.誤照射事故の原因には,スタッフの教育と訓練不足,品質管理の不徹底,治療機器等の欠陥,本質的な治療情報提供の欠如,スタッフの不注意と無知,放射線源の安全管理の不徹底などが考えられています.また,日常の放射線治療の流れにおいて,ユーザだけでなく,装置受け入れ時のメーカも加えた各職種間の業務役割の責任のあいまいさも浮き彫りにされています.これらを解決するために専門職としての技師教育の重要性が問われています.
 この度,関連 3 学会(放射線腫瘍学会,放射線技師会,放射線技術学会)により放射線治療専門技師認定機構が設立されます.日本の実情に合わせた放射線治療技術の専門家集団を統一的に育成し,国民のために安全かつ高度な医療の質を提供することをめざしています.本機構認定の放射線治療専門技師の役割は,(1)専門的な知識と技術を高め,より高度な放射線治療を円滑に行うこと,(2)患者の全般的な安全性と快適性に配慮して,確実な位置決め照準と適切な投与線量の照射を行うこと,(3)放射線治療における高度な放射線計測を修得し,実行すること,(4)放射線治療機器,治療計画装置,および放射線治療関連機器・器具等の品質保証・品質管理を修得し,実行すること,(5)放射線治療分野の放射線安全管理を適切に実行すること,(6)放射線治療における医療安全を企画・立案し,実行することなどであります.これらは,目新しいものではなく,過去から現在までわれわれ技師が行ってきた業務役割の専門性をさらに高めていこうとするものです.前述のようにそれぞれの学会は独自に治療専門技師育成にかかわるシステムを持っていましたが,目標とすべき放射線治療のあり方は学会や団体によって変わるものではありません.また,会員として放射線治療に従事する放射線技師は複数の学会や団体に所属している場合もあれば,そうでない場合もあります.したがって,このような帰属学会や団体に依存することによる不都合を回避し,かつ,放射線治療技師の資質の向上と統一的な展開を図るために,「放射線治療専門技師」を共同認定することは重要なことであると考えます.今後,関連 3 学会の放射線治療に携わる診療放射線技師はこの統一された認定機構によって治療専門技師の認定を受けることになります.放射線治療専門技師認定機構の事業の根幹は,統一された定款により専門技師の認定を行うだけでなく,専門的資質や技量の充実を図るために継続的な研修,講習,実習を実施していくことであり,この機構の果たすべき役割は,継続した恒常的活動が担っていくことになります.したがって,この放射線治療専門技師認定機構は認定の統一だけでなく,放射線治療専門技師の資質の向上や医療安全に対する取り組みを積極的に推進するための制度でもあります.さらに,本機構は,関連 3 学会とは親密な関係を保持しながらも独立した運営形態による事業を行っていくことになります.ぜひ,皆様方には,放射線治療専門認定技師機構の設立にご理解を頂くと同時に認定資格を取得され,わが国の放射線治療の安全と発展に貢献されることをひたすら願うものであります.(理事,放射線治療分科会長)