JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2005; 61(8)
世界に発信しよう放射線技術学
小寺吉衞 

 昨年度までで,診療放射線技師を養成する国立の学校はすべて 4 年制へと移行した.平成17年 4 月現在,4 年制大学の養成校は国公私立を合わせて22校(国11,公 4,私 7),3 年制短大が 3 校(私 3),3 年制の専修学校が16校(国 1,私15)の計41校になった.4 年制大学で博士課程前期課程(修士課程)を持つ大学は12校,博士課程後期課程(博士課程)を持つ大学は 6 校ある.はっきりとした二極化の傾向が現れている.どこの学校を出ても必要な知識は身につけてもらわなければならないのは当然のことで,そのために国家試験があると考えている.しかし,国家試験は最も基本的な知識を問うているものであり,臨床の場でさらに知識と技術を身につけなければならないことはいうまでもない.かつて,診療放射線技師を養成する学校には,厚生省(当時)の決めた指定科目があり,これを指定された時間受講しなければならなかった.現在は大綱化により大まかな項目は挙げられているが,細かな教科の指定はない.そのうえ,講義時間ではなく項目ごとの単位が定められているだけである.大綱化によって決められた項目は,時代を反映して,技術的な事柄よりも臨床の領域が増えているが,診療放射線技師にとって,技術的な事柄と臨床的な知識はどちらも大切であり,両者をバランスよく学ぶことが必要である.したがって,診療放射線技師の学ぶ領域は非常に幅広く,また,特定の領域を専門にする場合には,さらに深い知識が要求されることになる.これらの領域は,これまで多くの分野の寄せ集めのように思われてきた.放射線物理学,電気電子工学,システム制御工学,情報理論,解剖学,生理学,心理学等々,皆それぞれにおいて専門家が存在する.では,診療放射線技師は専門分野を持たない職種であろうか.そうでないことは自明である.なぜなら,われわれには「放射線技術学」という分野があるからである.しかしながら,「放射線技術学」は,その成り立ちからも分かるように非常に広範な学問領域を含むことになる.「放射線技術学」を一つの分野として成立させるためには,多くの分野の専門家が協力して基礎の部分を作り上げていく必要がある.ではどこがそれを担うのか.それが学会である.本学会は,「放射線技術学」の進歩発展に寄与することを目的としている.臨床研究を行う診療施設や,基礎的な技術開発を行う大学,企業の研究施設等と連携をとり,この「放射線技術学」を育てなければならない.世界的に見ても,「放射線技術学」を看板に掲げる学会は少ない.そのことは,医療の世界で需要が少なかったからではない.なぜなら,わが国ではこれだけ発展しているからである.恐らく,日本以外の国では,先に挙げたそれぞれの分野の専門家が,「放射線技術学」の領域で仕事をしているということであろう.それも可能なのが「放射線技術学」であるが,初めに述べたように,わが国には,「放射線技術学」を専攻する大学院が次々に設置されている.世界にもまれな「放射線技術学」立国である.これまで,本学会の会誌は,「放射線技術学」に関する多くの論文を受け入れてきた.いくつか欧文もあるが,大部分は和文である.この非常にユニークな「放射線技術学」に関する成果を世界に発信しないでいるのはもったいない.そこで,本学会では現在,英語論文誌の発刊を検討中である.世界には,われわれの領域と重なる分野の学会誌(英文)を持つ学会がいくつかある.これまで本学会で種々研究発表された方々も,その成果を世界に発信するときには,それらの学会誌を利用されたことと思う.しかし,それらの学会誌は,医学に重きをおいたものであったり,物理学あるいは工学に重きをおいたものであったりしたため,論文の内容をそれぞれの学会の主旨に合わせる作業を余儀なくされた経験を持つ方も少なくなかったのではなかろうか.本学会が,英語論文誌を持つ重みはそこにある.われわれが,本当に主張したい事柄,それをそのまま発表できる英語論文誌の存在は,「放射線技術学」を世界に発信し,それを認知してもらうことにほかならない.それが,本学会の責務であると考えている.また,電子出版の形をとることにより,世界中で関連する仕事をする人たちからの情報発信の場になる可能性もある.今後ますます「放射線技術学」を専攻する大学院が増えてくるであろう.そこで学んだ人たちが教員になり,さらに次の世代を教育し始める頃,「放射線技術学」は実を結び,種をまき始めることになる.一つの学問領域が芽生え,成長し,成熟していくには長い年月が必要であるが,今まさにわれわれは花を咲かせる成長期に入ったといえる.幸せな仕事に携わることができる喜びに感謝している.(総務理事)