JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2005; 61(10)
社会の要請に応えられる診療放射線技師
梅田徳男 

 エックス線装置は明治時代に輸入され,それを取り扱う技術者も自然発生的に分化してきたが,昭和26年に「診療エックス線技師法」が制定され,これらの技術者の資質と身分の安定が図られた.その後,医療への放射線の利用は大幅に増大し,放射線治療を行う医師の補助者として診療用放射線全般について取り扱う技術者が強く望まれるようになり,昭和43年に広く放射線を取り扱う技術者として新たに診療放射線技師の制度が創設された.また昭和58年に「行政事務の簡素化及び整理に関する法律」のなかで,「診療エックス線技師法」が廃止され,法律名も現行の「診療放射線技師法」となった.現在までの主な改正として,平成 5 年に,医学の進歩に対応して医療関係者間の効率的かつ適正な役割分担を図るため,新たに磁気共鳴画像診断装置等の画像診断装置を用いた検査が業務に追加された.
 一方,診療放射線技師の養成もこれら社会のニーズに応えるべく,41校ある診療放射線技師養成校のうちの半数程度は 3 年制課程から 4 年制課程へ移行し,3 年制課程として残る短大 3 校,専修学校16校の一部にも 4 年制への移行を模索・検討している様子がうかがえる.また,これら養成校のうち,12校に大学院博士課程前期課程(または修士課程)が,6 校に博士課程後期課程(または博士課程)が設けられており,すでに博士課程を修了し,博士の学位を持って診療放射線技師として就労している者もいる(以上は平成17年 4 月現在の数字).平成 5 年から始まった 3 年制課程から 4 年制課程への移行の際には,一般教養科目の充実と,医療機器の発展に追随できる診療放射線技師の養成が主に唱えられた.将来的には薬剤師養成のように 6 年制課程への移行を行って医師と同等な教育を行おう,との意見もある.また,本学会でもスーパーテクノロジストの認定制度を制定して,より高度な知識や技術の習得を認定しようとしている.これらはいずれも,診療放射線技師そのものの知識や技術面での向上に必要不可欠なことであるが,他職種の医療知識や技術を習得しようとするものではない.
 このことは最近の国家試験の問題傾向でも見受けられる.平成15年 6 月10日付官報第3624号により「診療放射線技師法施行規則の一部を改正する省令」が公布され,即日施行された.診療放射線技師学校および養成所におけるカリキュラムについての見直しがなされ,平成13年 3 月30日付をもって「診療放射線技師学校養成所指定規則」を改正,4 月から施行されたのを受け,平成16年度から新たな出題基準による診療放射線技師国家試験が実施されている.すなわち,患者接遇の領域が新たに取り入れられ,医用画像情報学が新科目として加えられた.また,専門的な知識や医学的な知識を試す問題が増加し,出題範囲も広く,深くなった反面,基礎科目の範囲や問題は減少した.これらから,画像の読影支援や患者の安全・安心を守るための医療安全対策,現行の業務にかかわる知識・技術を重視しようとする傾向がうかがえる.この傾向は現代の診療放射線技師が担うべき事項であり,新たに診療放射線技師の範疇が広がったわけではない.
 今日,医学や医療は大きな進歩をとげ,医療技術や医療機器は高度化し,医療の専門分化が進んでいる.特に放射線機器の高度化はすさまじく進み,機器の安全性や体位の変更に対し,診療放射線技師は患者に十分な説明を行う必要がある.これは従来の診療放射線技師に欠けている部分であり,是非とも充実させたいことである.また医療の専門分化が進んでいるが故に,十分な医療サービスを患者に提供するには,さまざまな国家資格・専門資格を持ったコメディカルスタッフが協力して働くことが不可欠となっている.これらのことから,チーム医療の必要性や実践が唱えられて久しい.チーム医療には医師,歯科医師,薬剤師,看護師,保健師,助産師,准看護師,診療放射線技師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視覚訓練士,臨床工学技士,栄養士,管理栄養士,歯科衛生士,歯科技工士,医療ソーシャルワーカー,ケアマネージャー,介護士などが参加することになり,医療機関のみに限らず在宅患者のために訪問する形態での参加もあり得る.ここでいうチーム医療とは,医療スタッフがそれぞれの専門知識や技術を生かし,協力して患者の治療にあたることをいう.専門職がそれぞれの立場で意見や技術を提供し合うことによって,医療の質が向上し,患者のQOL(quality of life)も向上すると考えられる.このようにチーム医療は安心・安全な医療,良質な医療サービスを提供するためのキーワードである.このため医師はいうまでもなく,看護師なくしてはチーム医療が成り立たない.リハビリ関連の専門職も必要である.また,薬剤師は病棟の患者を訪れ,服薬指導を行っており,終末期コントロールのカンファレンスなどにも参加して情報交換を行い,チーム医療に参加している.これに対し,多くの診療放射線技師は心臓カテーテル検査・治療など一部の領域を除いて,チーム医療に参加しているとはいい難い.
 多くの診療放射線技師が社会の要請に応えるためには,自身の専門領域の知識や技術の習得・向上はもちろんのこと,他職種・他領域の知識を学び,患者への接遇も良好に行う必要がある.そうでないと単なる写真屋さんに留まってしまうと危惧する.診療放射線技師に求められるものは,単なる写真屋さんではなく,患者に安心して診療・治療を受けさせ,チーム医療を実践する医療スタッフの一員としての役割である.これらの実現のためには,チーム医療に対する診療放射線技師自身のモチベーションの向上を図るとともに,養成校では患者接遇・チーム医療教育を実践し,関係する学会は他職種,他領域の学会とも積極的かつ横断的な協力を実践することである.(理事,医療情報分科会長)