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美容外科のすすめ

第 4 回・blepharoplasty―二重術と若返り術―

 blepharoplastyは日本語で「眼瞼形成術」と訳されています.一般的にアメリカでblepharoplastyというと,男女問わず中年以降が受ける手術と考えられています.

blepharoplastyとは

 blepharoplastyは,大きく分けて上瞼の形成と下瞼の形成に分けられます.歳をとるにつれ目の周りの脂肪が前面に飛び出てくるため,上瞼に皮膚のたるみが出てきます.一般にいう「二重(ふたえ)の線」が下がってきたような形になり,目が小さく見えます.そのため,化粧,特にアイラインなどのメイクアップをしてもうまくのらなかったり,目が小さく見えることによって老けて見えるということがあります.
 この手術は上瞼の余計な皮膚,および眼輪筋を少し取り除き,さらに突き出ている脂肪を取ることにより上瞼をすっきりさせ,目がぱっちりと開いた形にします.下の瞼に関しては一般的には膨らみを取る手術になります.下瞼は歳を重ねると,特に中央部や目じりにかけての皮膚が緩んでくるため,横ジワが目立つようになります.さらに,下瞼に脂肪のふくらみが出てくるので,瞼が膨れて見えます.
 生まれつき脂肪が溜まっている人の場合には,若くても疲れているような,あるいは老けているような印象が出てしまいます.その場合には,比較的若くてもblepharoplastyを希望される方がいます.若くて皮膚の余分があまりないときには,脂肪のみをとるという形になります.
 一般的には若返りの手術と考えられると思いますが,特にアメリカ人の場合には近年,30代後半〜40代の希望も増えてきました.

 

事情が異なる日本人と欧米人

 一般的にアメリカにおけるblepharoplastyは,いわゆる「若返りの手術」であり,簡単に「アイリフト(eyelift)」と呼ばれています.一方,日本においては,blepharoplastyは「二重瞼にする手術」であると考えられています.日本人の目と,ヒスパニックを含めた欧米人の目や瞼の形を検討してみると,欧米人は日本人に比べて二重の線がしっかりと入っているのが顕著な違いとして挙げられます.平均的に欧米人の二重の線はまつ毛からおよそ10mm前後の距離にあります.眼瞼を上げる筋肉,眼瞼挙上筋(levator)が瞼板の上につながり,そのつなぎ目のところに線維状のつながりがしっかり形成されているため,目を開けるたびにその筋肉の付着部から瞼板を持ち上げ,その結果,シワができるということになります.もうひとつ,よく見られる欧米人の目の特徴は,比較的瞼のはれぼったさがないということです.これは脂肪の沈着が瞼の皮下組織に少ないということがひとつ,もうひとつは眼窩からの脂肪の突出が少ないためであると考えられています.ところが,歳をとって結合組織が柔らかくなると,脂肪が突き出てきますので,目のまわりは次第にはれぼったくなってきます.
 これに対して,日本人には二重の線が欠損している瞼が多く見られます.約30%の日本人には生まれつき,二重の線がついていますが,一重瞼が大多数ですので,アメリカなどでは,日本人を含め東アジア人の目は,二重の線がなく小さいのが典型だというように考えられています.解剖学的には,先ほど述べたように,白人の場合は眼瞼挙上筋が瞼板の上に付着しますが,この付着したところから皮膚へのつながりが欠損し,瞼の上にひだが形成されないのが一重瞼です.さらに特徴的なのが皮下脂肪の沈着で,皮膚の下,特に皮膚と眼瞼挙上筋の間に脂肪が沈着しているケースが頻繁に見られ,そのため,目が厚ぼったく見え,いわゆる奥二重のように二重の線が薄く入っていても,それが見えにくいという現象があるということです.このような形態上の違いのために,日本人向けのblepharoplastyと白人あるいは欧米人向けのblepharoplastyとは多少意味合いが異なってきます.

 

二重瞼のつくり方

 日本でよく言われる「二重にする手術」というのは,一重瞼を二重瞼にするという治療です.この手術を受ける患者さんは一般的に若い人,特に若い女性が大多数を占めます.この手術は生まれつき一重の人の瞼に二重の線の“傷”をつくることによって,眼瞼挙上筋の上から皮膚へのつながりを瘢痕組織として作ってしまう,そのために二重の線が形成されるという手術です.この手術は日本では非常に頻繁に行われており,大きく分けて,切開法と埋没法という方法に別れています.切開法というのはアメリカで一般的に行われているblepharoplastyと同じような方法ですが,二重の線に沿って切開を行い,ごく少量の皮膚を取り除いて縫合します.このように切開を行うことにより,瞼板と皮膚との癒着を形成させて二重の線をつくります.この手術は特にはれぼったい目の人に有効で,切開と同時に眼窩の周りの余分な脂肪を取り除くことができるので,はれぼったい瞼を薄くすることにより,さらに二重の線を強調することができます.若い人で皮膚の余分が少ない人,あるいは皮下脂肪の沈着が少ない人には埋没法という糸をかける手術を行うことが可能です.埋没法の利点は,傷跡がほとんどないということです.一般的には二重の線にそって,三箇所ほど設定をし,そこに糸をかけることにより,眼瞼挙上筋と皮膚との間に瘢痕組織を作り,そこから二重を形成することになります.しかしながら,埋没法は瘢痕のでき具合が少ないために,二重の線が次第に薄くなってくるということがあります.特に最初の 6 カ月〜1 年で二重の線が取れてくるという傾向があります.
 いずれの場合も二重の線はまつ毛から7mm前後に設定します.これは白人の10mmに比べてやや狭めです.二重の線を高くすれば目が大きく見えますが,西洋的な目になってしまうということがあります.また西洋的にするのであれば,二重の線が融合する目頭の部分を切開することで二重の線を目頭よりも高めに走らせることが可能です.このような手術は目頭切開法といい,二重の線を目の内側で高くすることにより,やや西洋的な目の形を作ることができます.患者さんの希望によりこのような手術を行うこともありますが,一般的に目頭の切開線は傷が目立つ場合が多いため,できるだけ避けるようにしています.

 

理解されにくい「日本人の二重」

 それでは,このような二重の手術をどうして行うのでしょうか? 日本においては,目がぱっちりと大きいのが魅力的と考えられ,二重の目が一般的に好まれていますが,アメリカにおいては,日本人の目はアーモンド型の目と呼ばれ,日本人の患者さんの希望するblepharoplastyを,白人の中年以降の方が対象のアイリフトと同じような手術と誤解してしまうことがあります.誤解の原因は,一重の目を二重にするという手術は,目の形の西洋化であると考えられているところにあります.先ほども述べたように日本人の約30%はもともと二重瞼であり,一重瞼の人が二重にするという手術は,元来「日本人で二重になっている人のような瞼」にするという手術であり,「白人のような目」にするという手術ではありません.したがって日本人が白人の外科医に行って,二重の手術をすると,二重の線が高すぎて白人のような目になってしまい,違和感があるということがよくあります.このように二重の線が過剰に高く作られてしまった場合,線を下げる手術というのは非常に難しいものです.私の友人の美容外科医も,「日本人の二重」というものが不明確らしく,どうして若い日本人の女性が二重の手術を受けるのか理解ができていないようです.
 下瞼に関しては,基本的には目の周りの脂肪を取ることになります.手術を希望される若い人は,余分な皮膚が少ないためにtransconjunctival approach(transconjunctival blepharoplasty)という方法が有効です.これは目の下瞼の脂肪を下瞼の内側から切開をする方法で,外側の皮膚への切開を避けることができます.この治療では脂肪のみを取り出すので,余分な皮膚がある方には向きません.

 

子どものblepharoplasty

 それでは,このような手術はいつ行うのがよいのでしょう? 日本人の患者さんには若いうちにこのような治療を希望される方がいます.10代の中学生や高校生の年代に両親に伴われてこのような治療を希望される方もいます.未成年の方への手術の際には非常に注意が必要となります.というのは,二重の手術は顔の印象が手術の前後で大きく変わるからです.学校や友人からからかわれることも起こりかねません.このため私のオフィスでは患者さん本人,およびご両親の方と十分に話し合いをし,患者さんであるお子さんが十分に納得して治療を行う気持ちにならない限り治療を行いません.手術を行うのは,例えば,学校を変わる,あるいは長期の休みがあるといった,子どもの社会状況,交友関係が大きく変わる時期を狙って行うのが適切であると考えます.また,子どもの手術を行う場合,特に瞼が厚い患者さんの場合には二重の線が入りにくい,あるいは入っても長続きしないという傾向があるようです.

 

blepharoplastyの汎用性

 日本人も歳をとるにつれて皮膚が緩んできますので,上瞼や下瞼にたるみ,ふくらみが出てくるのが普通です.そのために中年以降,特に40代以降になりますと,瞼が緩んできて,白人の方に行うような,いわゆるアイリフトと呼ばれるblepharoplastyという手術を必要とされる方がもちろん出てきます.このような手術は前述のように,余分な皮膚と脂肪を目の周りから取り,目の周りをすっきりさせるということで,外観が若返るという手術です.しかしながら,このような手術で注意すべきことは,もともと一重の瞼の方が歳をとって皮膚が緩んできている場合に手術を行うと,基本的には手術後は二重の瞼になるということです.このため,特に男性の方は手術を行うのを躊躇されることがしばしばあります.一般的に男性のほうが,外観の変化に対する受け入れがやや難しいようです.
 blepharoplastyは一般的には局所麻酔とsedationとの併用によって行います,sedationというのは点滴注射により薬を注入することで気持ちを和らげ,痛みに対する感覚を鈍らせることで,局所麻酔の注射を受け入れやすくするという治療法です.これにより手術の際も痛みを感じることは全くありません.また外来手術ですので手術後帰宅できますし,おおよそ 1 週間ほどで回復します.ただし,上瞼の場合,腫れがしばらく続きます.そのため,二重の線が術後1〜3カ月間はやや高めに見えるのが普通です.

 

第 1 回・美容外科の臨床研修―美容外科をいかに教えるか?― 第 2 回・美容外科患者の心理―どうして美容手術を選ぶのか― 第 3 回・シリコンジェル・インプラントの再許可―選択肢の増えた豊胸手術― 第 4 回・blepharoplasty―二重術と若返り術―

PROFILE

Alex Kim

アレックス・キム
Alex Kim

Beverly Hills Plastic Surgery, Beverly Hills, CA, USA
http://www.alexkimmd.com/


 愛媛県松山市出身,松山東高校卒業.1978年長崎大学医学部に入学,1984年卒業の際に当時の形成外科教授・難波雄哉教授に師事,長崎大学形成外科教室に入局.2 年間の研修医を終えた後,1986年に渡米.ECFMG獲得後,アメリカでの医師免許を取得.1988年より1 年間,Pittsburgh大学形成外科教室にて筋肉の拡張の基礎研究に従事.この研究は後に1990年ワシントンDCでの形成外科リサーチ・カウンシルにて発表.1989年に一般外科のレジデントを開始,ロサンゼルスのCedars-Sinai Medical Centerを経て,1991年から 1 年間,Loma Linda大学形成外科にて臨床フェローとして働いた後,Loma Linda大学にとどまり,一般外科のレジデントを1995年に終了.1995年から1997年の 2 年間,ロサンゼルスのSouthern California大学にて形成外科のレジデントを終了.日米を含め11年間のトレーニングの後,ビバリーヒルズで開業し,現在にいたる.一般形成外科を含めて,美容外科を中心に活動.

 2001年からはアフリカのナイジェリアでの形成外科ボランティア活動を開始,主に唇裂,口蓋裂,さらに一般形成外科再建手術,熱傷再建手術など多種の手術を手がける.2004年からはベトナムのハノイを中心にベトナム北部の農村に出かけて,唇裂,口蓋裂の診療活動を行う.ビバリーヒルズのオフィスでは,顔と乳房の美容外科を中心に診療活動を推進する.

 アメリカ外科および形成外科のボードの認定医,有資格者.アメリカ形成外科学会(ASPS)正式会員.アメリカンカレッジオブサージョンズのフェロー(FACS)およびカリフォルニア形成外科学会の正式会員.