この領域では、まず1979年にCTという画期的な診断装置の開発者であるGodfrey N. Hounsfieldに同賞が与えられた。医学診断に革命を起こしたCTは、何にもましてそれにふさわしい価値があった。その後、もともと40年代から計測技術としてあった核磁気共鳴法(NMR)を応用して、MRIは80年代に画像診断法として実用化にこぎつけた。一時の足踏みはありながらも、その急速な技術的・臨床的進歩は、CTをもはや陳腐化するのではないかとまで思われた。さて、そうなると、次のノーベル賞候補として、その開発のパイオニアは常に噂され続けたのである。
「次に医学診断分野でノーベル賞をとるとしたら、それはMRIでしかなく、そうなれば、Dr. Lauterburでしかない」と最有力視されていた。そして、今年それが現実のものとなった。90年代初期からの“噂”は、かくして実現したのである。
MRI診断法は、いまや医療診断には必須で確かな診断法となっている。そしてそれは、装置の進歩ばかりでなく、「造影剤」という画像診断の力を増強するものなくしては、もはや語れない。
11月28日、ベルリンではそのパイオニア企業である、シエーリング社(SCHERING AG)が、International Press Forum: Research & Development Projects at Scheringを開催した。そこでは、造影剤メーカーのリーダーである同社が今後、それを含めさらに幅広い領域にチャレンジする、という決意の表明の場でもあった。
診断・治療は医学診療の両輪である。同社は長く診断薬の開発に重心をおいた製薬会社である。がしかし、いまやその姿は大きく変貌し、診断領域は全体の3分の1でしかない。重要ではあるが、しかし今後その比率はさらに減るかもしれない。が、それは一方において同社が、医療においてよりユニバーサルな開発を進め、治療領域にその開発ウイングを大きく拡げよう、というチャレンジにほかならない。
同フォーラムでは同社の現在、そして近い将来についての開発状況、開発目標が示された。大きく分けて、「新しい考え方の抗がん剤の開発」、「パーキンソン病の細胞レベルの治療アプローチ」、その豊富なホルモン研究実績を活用した「ホルモン補助療法の開発促進」、さらにもちろん診断分野では、「乳がん診断におけるMRIの画期的な利用法」などであった。また、心臓血管系の疾患に対する開発アプローチもモレキュラー(分子)レベルで、しかもカテーテルを使ってターゲットエリアにアプローチするという、非常にマイクロ(局所的)な手法を念頭に開発を進めている。画像診断用診断薬メーカーであったからこその発想というべきだろう。それは全身療法に比べ、極めて副作用の少ない、スマートな治療アプローチでもある。
同社は、本拠であるドイツはもとより、米国、日本を開発の極としている。とくに日本は次世代の医療として期待される「再生医療」の開発拠点と位置づけられ、その将来的重要性が際立っている。それは神戸を拠点に、2005年から本格的にスタートすることになっている。