巻頭言 |
Jpn J Radiol Technol 2000; 56(8)
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学会の役割
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川村 義彦
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昨年は新幹線トンネルのコンクリート塊崩落事故,原子力ウラン加工工場での臨界事故,国産ロケットなど大型技術プロジェクトの事故と失敗が相次ぎ,日本の技術は大丈夫かといわれ,根本的な改善が叫ばれている.昨年から今年にかけては医療機関の事故が頻発し,茨城での高校生胸部健康診断過剰被曝という関連分野での事故も起き,倫理観の混迷,マネジメントの未熟などを指摘されて大きな社会問題となっている.安全性確保を達成するためには,これらの問題を片手間でなく正面から取り上げて対応していく必要がある.専門技術者としては,品質に悪影響を及ぼす要素を徹底的に排除していく品質管理手法(QC活動)を応用し,リスクの予防・対策・再発防止を一つのサイクルとしてとらえて,リスク最小化を図るなど積極的に進めていただきたい. 振り返ってみると日本の技術に安心感があった,いわゆる安全神話時代の日本には,生産などの現場を尊重する考えが根付いており,組織をあげて仕事の質の向上に努めていたはずで,安全性や高品質の基礎になってきたこうした伝統が明らかに弱体化しているのが問題点として挙げられる.この現場主義の後退には技術的なことも含めていくつかの理由が挙げられるが,倫理的な意識の問題が大きく指摘されている.また,ここにきて科学技術の社会に及ぼす影響が大きくなっており,倫理的な規範なしには科学技術も技術者も世の中に受け入れられなくなってきているのが現実である. 日本機械学会では,臨界事故やコンクリート崩落事故などで日本の技術者の倫理が衰退していると指摘されるなか,昨年末に初の倫理規定を設けた.それによると会員の自らの良心と良識に従う自律ある行動が,科学技術の発展とその成果の社会への還元にとって不可欠であることを明確に自覚すること,同時に会社や組織の論理に従って仕事をこなすだけでなく,自らの知識と経験に基づいて判断し行動すること,専門的な知を備えた技術者や研究者として,人類社会の発展に尽くす志を持つことなどを求めている.この倫理規定は多くの学会に共通していることであり,私どもの学会にも当てはまる素晴らしいものである. さて,私は会長就任以来,公益法人としての学会のあり方に言及し,「放射線技術科学に関する研究・学術活動を通じて対象領域の医学・医療の発展に貢献し,人類の幸福と社会の発展に寄与すること」を理念にあげ,「専門分野学術の進歩・発展に貢献する役割と,学術基盤の強化及び社会発展に貢献する役割」を使命に掲げて事業を押し進めてきた.この基本的な方針は今後も堅持していくが,ここにきて学会の新しい役割,特に社会に果たす役割についての議論が盛んに行われており,そのなかで日本工学会の大橋秀雄会長は,社会のなかでの学会の位置づけ・使命について実に明確に提示されておられる. それによると,まず,学協会(学会)は公器としての自覚が重要であるとし,そして二つの使命を掲げられて,その一つは学術の発展を通じて社会に貢献するacademic societyとしての役割で,二つ目は専門集団として社会に責任を果たすprofessional society としての役割である.学協会(学会)は基本的にこの二つの役割を果たしており,その二面性を持っていることを強く認識しなければならないとしている. 私どもの学会に当てはめてみると,一つ目は当然のことであり,二つ目の専門集団としての社会への責任に関しての当学会は医療に関連する放射線の専門家集団でもあることから,国民の命を守り健康福祉に貢献するなど,社会への直接的な貢献は本来的に重要な役割として行ってきている. 提案されているこの二つの使命は,多くの会員にとって共感をいただける分かりやすい使命の提示であり,他学会と同様に私どもの学会の役割でもあることを強く認識したいものである. (学会長) |