JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2002; 58(8)
私の視点
花山正行 

 今年は本学会にとって60周年の還暦の年を迎えます.還暦という言葉の意味は「本卦還り」といって十干十二支が60年で一回りし,生まれた年の干支に戻る事からつけられたといわれています.その意味で本学会は今年60周年目の節目の年にあたり原点に戻り,学会の理念と基本方針に沿って放射線医学・医療の新たな発展・貢献に力を注ぐ必要があるのではないでしょうか.秋には将来構想特別委員会から時代に沿った学会の在り方などについて答申がなされます.
 広辞苑によると学会とは「学者相互の連絡,研究の促進,知識・情報の交換,学術の振興を計る協議などの事業を遂行するために組織する団体」となっております.学会の評価は有能な研究者・技術者が研究発表しているか,どれだけ世界に通用する「研究報告・研究論文」が発表されているかが,唯一学会の評価点になるであろうといわれています.学会では当会員が外国で開催されるRSNA,ECRおよび関連学会などへ発表するための援助を行っております.外国で発表する会員数が増える事は学会会員に刺激になります.
 当学会の研究論文に関して,論文数の推移をみますと,学会誌に掲載(原著,ノ−ト,臨床技術)された数は1982年から1991年の10年間で 1 年あたり平均27.5編であったのが,1992年から2001年の10年間で 1 年あたり平均51.5編に増加してきています.特に昨年は72編が掲載されました.しかし,一方では春秋の学術大会で発表される約800題に対し,年間掲載される論文数としては少ないとの指摘の声もでています.その大きな理由は論文を書きなれていない事ではないでしょうか? 今後学会では若手研究者を育てる目的で研究の進め方,学会発表,論文の書き方などについて,セミナが開催される予定です(学術委員会).
 研究内容について,会員構成から見ても研究職でない方が大半であり,会員の特徴からどちらかといえば新規装置の使用経験,システムなどの検証に関するテーマが多く,独創的なテーマとなると乏しい部分があるといわれる方もおられます.
 当会員のなかで文部科学省の科学研究費補助金を受けられる方が少ない.なぜならば応募資格は当該研究機関に常時勤務する事および研究を主たる職務とする事の二つの要件を満たすものとなっています.研究をするには環境と費用が伴ってきますが,研究を主とする業務に従事していない会員には研究費用を捻出する充てがありません.特に基礎的な分野についてはますます困難な状況になってきているのではないでしょうか.学会は今後いつ芽を出すか分からないような種子となる人材と知的財産を確保する事も大事と考えています.その一つの方法として,個人への研究支援システム(公募)を学会として企画してはいかがでしょうか!!
 さらに論文の投稿数を増やすためにハ−ドルを低くする事と学会誌の権威を高める事について相反する部分が出てきますが,それぞれバランスを保ちながら運営して行く必要があります.また,学会誌の権威を高めるためにも外部評価を受ける機能が必要と考えます.すでに,本学会誌が国際的な医療文献検索に広く知られ,利用されている「MEDLINE」に登録されており,「MEDLINE」での検索によって,広い意味での外部評価が受けられ大変喜ばしい事であり,会員からのさらなる論文の投稿が今後期待できると思っております.
 一方,学会運営に関して大きな問題点は会員の減少です.会員の動向は1983年まではほぼ直線的に増加を示し,1995年度まで右肩上がりの状況を呈していました(会員数18,543名).しかし,その後,会員数は部会の広域化がスタートした1995年以後,右肩下がり傾向になり,2002年 2 月には16,417名であります.会員の減少は診療放射線技師の入会が関係しているのではないでしょうか.会員の構成員は主メンバが診療放射線技師であり,1991年は全体の約95%が2002年には約91%に推移し,会員減少の原因になっています.保健学科 4 年生卒,修士の入会に影響がでているのではないでしょうか? 来春は国立大学保健学科卒の博士課程終了者が出てきます.今後学会としての学術レベルの向上と意識の改革が必要と考えます.
 会員の皆さま方のこれまで以上のご支援とご理解をいただきますようお願い申し上げます.
(本部理事)