JSRT 巻頭言 | Jpn. J. Radiol. Technol. 2003; 59(8) |
初めて学会に参加した日を忘れないで
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小寺吉衞 |
学会には閉鎖的な学会と開放的な学会があります.前者は入会に際し,資格審査があります.研究歴,業績等をカウントし,入会資格があるかどうかを調べます.このような学会に入ることで,その学会員は,その分野の専門家とみられ,一種のステイタスになります.学会そのものも社会的見地から,その分野の専門集団とみなされます.また,学会としての権威付けもあるでしょうし,門外漢が入ってきて学会内に無用の波風がたつことを防ぐ役割も果たしています.反対に,後者の入会は自由です.特に資格も必要ありません.このような学会の多くは,その定款で「学会の目的,主旨に賛同の方の入会を認める」としています.どちらの学会にも,それぞれの立場があり,その考えのもとで運営されているのでしょうから,ここでそのどちらがよいかという議論はやめましょう.というよりも,それぞれの学会にはそれぞれの役割があると考えるべきではないでしょうか.翻って,本学会は後者の開放的な学会という立場をとっています.このことは,本学会が何を求め,また何を求められているのか,ということを考えるきっかけになります. 本学会は入会に際して資格は必要ありません.業績や研究歴も報告する義務はありません.では,本学会は,閉鎖的な学会と比較して,その専門性を否定されるのか,といえば,そうでないことは明らかです.「放射線技術学」という分野では,恐らく,わが国で最も専門家のいる学会です.これは,学会の目的が明確であり,その主旨に賛同する人が入会してくるわけですから,当然といえば当然です.ところが,しばしば,入会資格を制限しないことで,学会とはいえない,研究者集団ではないと誤解されている方がいるようです.もちろん,そうでないことは,多くの学会が開放的な制度を取り入れて問題なく機能していることから分かると思います.また,研究者の属性として学歴や学位を云々される方もおられますが,これも誤っていることは,最近のノーベル賞の受賞をみても明らかです.私は大学に属していますので,その構成員としての立場から,学位や業績を求められていますが,それと研究とは全く別であると考えています.研究に必要なのは,絶えまない探究心と素晴らしいひらめき,そのひらめきから結果を生むまでの粘り強い努力,そして,その分野の広くて深い知識です.しばしば経験がものをいうこともありますが,それは本質的ではありません.学問は,そのことに興味を持った人すべてに門戸を開きます.そして,学会は,そのような人の集まりであり,研鑽の場です.本学会は昭和17年に設立されました.恐らく,「放射線技術学」という学問は,そのもっと前から存在していたと思いますが,形となって現れたのは,このときでしょう.しかし,「放射線技術学」が社会に認知されているかというとまだまだという気がします.本学会の使命の一つは,「放射線技術学」が,学問として独り立ちすることを手助けすることです.そして,その成果を社会に還元することです.そのためには,沢山の人々の協力が必要です.資格はいりません.「放射線技術学」を愛する気持ちがあれば十分です.本学会は,診療放射線技師の他に,医師やその他の医療スタッフ,企業の研究者,大学の教員,学生などさまざまな立場,職種の集まりで成り立っています.それこそが,「放射線技術学」の特徴ではないでしょうか.そして,これが本学会を開放的な学会としている理由であると考えます. 研究するのに,王道はありません.権威もありません.資格も必要ありません.研究を思い立った人たちが,それぞれの立場で,それぞれの考えで,対等に意見を交換することこそが重要です.そして,本学会は,そのような場を提供してきたであろうし,これからも,同じ立場を堅持していきたいと考えています.初めて学会に参加した日を忘れないで下さい.本年から学術委員会を担当することになりました.どうか,よろしくお願い申し上げます.(学術委員長) |