JSRT 巻頭言 Jpn. J. Radiol. Technol. 2004; 60(1)
Serendipity
藤田 透 

 新年明けましておめでとうございます.
 会員の皆様におかれましては健やかに新年をお迎えになられたこととお慶び申し上げます.皆様にとりまして新しい年が飛躍の 1 年となりますことを祈念申し上げます.
 私は昨年 4 月に学会長の拝命を受けましたが,お陰様で学会事業は円滑に運営されていますことを,まずご報告申し上げます.
 平成12年10月,白川英樹博士がノーベル化学賞を受賞されたことはご存知のとおりです.受賞後,白川先生の講演「私の研究における偶然と必然」を聞く機会があり,「Serendipity」なる単語を初めて耳にしました.この語源は「The Three Princes of Serendip」という物語にあるということで,Serendip(現在のスリランカの旧称)の 3 人の王子が他国への旅で多くの苦労の末に求めていたものとは異なる幸運を偶然につかんだことから,「探し求めていたわけではないが,偶然がきっかけですばらしい発見をする能力」をいうようになったということです.ニュートンの万有引力の発見,レントゲンのエックス線の発見,フレミングのペニシリンの発明,ワットの蒸気機関車の発明,コロンブスの新大陸の発見を例に挙げ,これらはすべて偶然の賜物ということでした.白川先生の場合はプラスチックが導電性を示すことがあるという独創的な発見により受賞されましたが,これは研究生が触媒の配合を1000倍間違ったという失敗からの偶然ということでした.科学分野では,思いも寄らない偶然やちょっとしたミスが歴史的な発見を生むことが少なくないということで,予想外の結果をミスとして捨てないでその結果に着目して研究を続けることが大切であると講演されました.ノーベル賞的発見はともかくとして,私たちの身の回りにもこれらの類はあったのかも,あるいはこれからあるのかも知れません.本学会の会員数は約 1 万 7 千人,日頃の研究・臨床のなかで新しい発見(偶然)を見つけ,根気よく育てたとしたら,これは大きな力になるのではないでしょうか.学術大会や学会誌に,本学会の目的である「臨床に利用される放射線の安全かつ効率的な科学技術」に関する多くの偶然が成果として公表される,そんな初夢を年初に思い浮かべております.
 さて,この 1 年は将来構想特別委員会から答申された学会の将来構想を,いかに本学会の事業に生かしていくかを検討してきました.「スーパーテクノロジスト認定制度」につきましては特別委員会で検討し,まもなくその概要が見えてくるものと期待しております.関連学協会等との連携につきましても徐々に形になってきております.また,(社)日本放射線技師会とも懇談会を定期的に持つことができるようになりました.これは中国・四国部会と香川県放射線技師会の共催で開催された両会会長の講演会がきっかけになったもので,今後は両会の基本的な立場を尊重しながら具体的な連携について協議していくことになります.前述の認定制度につきましても日本放射線技師会をはじめ,多くの関連学協会と協議しながら進めていく所存です.
 この 4 月,第60回総会学術大会を森克彦大会長のもとで開催します.昨年より,春の大会は620〜630題,秋の大会は320題と記録的な演題申し込みがされるようになり,大会への参加者も確実に増加しております.これはそのまま本学会のアクティビティとして評価できることであり,嬉しい限りと思っております.昭和18年 3 月に九州帝国大学にて開催された第 1 回は一般演題20題,参加者400名であったという記録からみますと,まさに隔世の感を抱かざるを得ません.
 年初にあたり,会員の皆様のご多幸とご活躍を祈念し,学会運営に一層のご指導・ご支援をいただきますようお願いします.(学会長)