〜VIEWS RADIOLOGYの目指すところ〜
Radiology といえば,学問領域というよりは,北米放射線学会(Radiological Society of North America:RSNA)の機関ジャーナル名としての認知度のほうが勝っているかもしれません.RSNAはとてもうまいネーミングをしたものです.しかもきわめてシンプルなところがよい.一方,ARRSとよばれる米国レントゲン学会(American Roentgen Ray Society)は,その歴史においてRSNAよりも「老舗」であるにもかかわらず,その機関ジャーナルにはAJRという呼称が好まれ,American Journal of Roentgenologyという長い正式名称でよばれることは少ないでしょう.その結果,シンプルさにおいてRadiologyの後塵を拝してしまい,ひいては学会の勢力,その学術的影響力にも今日に至るまでに大きな差ができてしまった.両者のミーティングの規模には,あらゆる意味で天地ほどの差があります.RSNAはそればかりでなく,日本にもヨーロッパにもその年次学術集会の開催手法を伝授し,それぞれに大いなる成功をもたらしています.開催地の固定化,機器展示にインダストリアルショーの手法を取り入れる,といったことが最も分かりやすい特長です.
欧州放射線学会(European Congress of Radiology:ECR)は,その機関ジャーナルをEuropean Radiologyとしました.短期間でかなり質の高いジャーナルになりつつあります.しかし,Radiologyという名称はすでにRSNAに使われてしまっているために,Europeanという限定的冠を付けざるを得ない恨みがあります.さて日本ではどうか.その手でいけばJapanese Radiologyとするところでしょうが,日本は特別,異質の国,同じ土俵では勝負をしないようです.
Radiologyという呼称を付けたことは,いまから振り返っても,けだし卓見だったと思われます.つまり,AJRの“R”とは,Roentgenologyなのです.現在,CTやMRを診断手法の中心に据える学問領域の呼称としては必ずしもしっくりきません.CTやMRというモダリティの登場の遥か以前にRadiologyをジャーナル名としたところにこそ,RSNAの今日の発展を当然のこととする先見性を見て取ることができます.
しかしながら,一般的にはどうでしょう.かつて,RSNA会長E Robert Heitzmanにインタビューした時のことを思い出します.「私がradiologistになると言った時,父親は嘆きました.お前はHarvard大学のMedical Schoolを出ておきながら,ラジオの技師になる気か,と」.当時いかにradiologyやradiologistの認知度が低かったか,ということを示す格好の例として,Heitzmanはそのことに触れたのでした.さて,今日においてその状況が大きく変わり,昔話となったかどうか.残念ながら,米国においてさえその状況はあまり進展していないようです.なぜならば,RSNAの年次学術集会では,いまだに「radiology,radiologistの社会的認知度を上げるにはどうすべきか」という議論が尽きません.さらにそのサブスペシャリティとして大いなる存在感を示しつつある,interventional radiology,およびその担い手であるinterventional radiologistの認知度はどうでしょう.やはり,それほど高くはないようです.
過去 1 世紀において,レントゲンに始まり,1970年代以降にCT,MRを生み出し,さらにそれらに関連する,多くの診断・治療手技のバリエーションを開発し,臨床医学に革命的な貢献をしているradiologyが,なぜそれに見合った認知度を得られないままにあるのでしょうか.
しかしながら,時代はradiologyにフォローの風を与えています.つまり,数値化され,記録に残る診断手技であり,最小限の侵襲度で済む治療手技,外来での治療あるいは最小限の入院で済むことによる社会生活への負担軽減,トータルでの費用負担の軽減等,これから社会・個人が医療に対して期待するほぼすべての要件を備えています.
画像診断の精度は革命的に向上しています.interventional radiologyは,相当幅広く適応が可能です.放射線腫瘍治療は,きわめて精度が高く安全な癌治療法です.最近では腫瘍学とinterventional radiologyの統合的な適応が可能になってきました.interventional oncologyです.さらに言えば,外科で開発された治療手技がinterventional radiologyの超マイクロ化技術によってさらに進化発展する可能性が出てきました.cosmetic interventionという領域も出てきています.美容形成術にinterventional radiologyを適応しようというのです.
このように精密な目(診断手技)と手先(マイクロカテーテル等の超微細デバイス)を駆使して,radiologyは21世紀の医療に最も貢献できる専門分野となるでしょう.しかしながら,その認知度の低さから,人材が十分には集まっていません.有能な医学生,さらに他科での修練を受けたうえでradiologyに宗旨替えする人々を増やしていく必要があるでしょう.せっかくの専門技術を十分に生かせず,患者に還元できていない状態が続いています.その結果,他科によって患者には必ずしも適切でない診療がなされています.関係諸機関はこの問題に合理的,効果的,かつ長期的な戦略をもって臨むべきでしょう.
“Radiology”に“Views”を冠した本誌は,radiologyの今後ますますの発展に微力ながら貢献したいと考えており,医学的,技術的,社会経済的に関与する専門家自身の視点から,さまざまな話題を提供していく所存です.radiologyにかかわる専門家集団としては,まずradiologistがあり,radiological technologist,medical physicist,medical engineerが主に考えられます.このような専門家の方々にさまざな話題で登場願い,radiologyの今日を探り,明日の命題を提示して参りたいと,深く念じております.関係各位のご協力を深甚からお願い申し上げる次第です.
VIEWS RADIOLOGY 編集部
BACK TO CONTENTS