Views Radiology 目次Vol.8-No.6, 2006(2007年2月発行号) Top Story 腹部大動脈瘤ステントグラフト治療の行方
腹部大動脈瘤ステントグラフト薬事承認—治療普及に向けて医師トレーニングを開始—
ステントグラフト治療発展の鍵を握る指導医育成プログラムがいよいよ始動 奈良県立医科大学 放射線医学教室 吉川 公彦
腹部大動脈瘤ステントグラフト治療のこれまでの経緯
腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)の低侵襲治療器具として普及に期待がもたれているステントグラフト,Zenith AAA endovascular graft(Cook社製)が2006年 7 月,日本で初めて正式に薬事承認され,2007年 1 月から保険算定されることになった. 大動脈へのステントグラフト留置術は,欧米において1990年初頭より各施設による手作りのデバイスとメーカー開発による治験製品を用いて臨床研究が進められてきた.すでに米国においては,2006年 6 月現在,Cook社ほか 3 社の製品がFDA(U.S. Food and Drug Administration:米国食品医薬品局)の認可を受けており,大動脈瘤治療の約半数がステントグラフト留置術の適応となるまでに普及している.本邦においても1994年ごろより手作りのステントグラフトによる臨床研究が本格的に始められ,その後いくつかの治験製品の導入により積極的に研究が進められてきた.しかし,手術適応外の患者に対する治療として,また,低侵襲治療法としての普及が望まれるなかで,2002年 4 月に保険診療報酬の改訂により手技料が算定されたものの,ステントグラフトそのものの製品としての薬事承認と保険診療報酬への収載がない状況が大きなネックとなっていた. 今回のCook社の製品は,本邦では1999年に奈良県立医科大学において 2 症例の治療に使われたのが最初であるが,その後,奈良県立医科大学,東京医科大学,三重大学,山口大学の 4 施設において実施した97症例の臨床治験をもとに薬事承認申請を行い,承認を得たものである.なお,このZenith AAA endovascular graftは,欧州,米国,アジア,アフリカなどの世界35カ国において認可・販売されており,すでに 1 万7,000症例を超える使用実績がある.
座談会 腹部大動脈瘤ステントグラフト治療発展の構図
企業製ステントグラフトの登場は治療普及の起爆剤となるか
腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)は動脈硬化に起因し,高齢者に多く,重篤な合併症のため手術の適応が問題となる場合がある.腹部大動脈瘤ステントグラフト治療は,こうしたハイリスク症例に対する低侵襲な治療法として約10年前から実施され,特に欧米を中心に広がっている.わが国では手技のみが先行して保険適応となったが,公式に使用できる企業製造ステントグラフトがないために治療の普及が遅れていた.2006年 7 月にようやくCook社製のZenith AAA endovascular graftが薬事承認を受け,今後は腹部大動脈瘤に対する標準的な治療の 1 つとして普及していくことと思われる.今回はステントグラフト治療の先進施設であり,Cook社の主催で2006年 8 月より開催されている指導医育成のための研修トレーニングプログラムの担当となっている 4 施設(東京医科大学,奈良県立医科大学,三重大学,山口県立総合医療センター)中 3 施設から,Zenith AAA endovascular graftの治験に携わった先生方にご参集願い,ステントグラフト治療の現状と今後の展望について語っていただいた.
腹部大動脈瘤ステントグラフト治療の現状と展望 東京医科大学病院 血管外科・心臓血管病低侵襲治療センター 川口 聡
胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の現況と今後の期待
臨床試験で好成績の低侵襲治療評価に,いま求められる解剖学的指標 戸田中央総合病院 血管内治療センター 石丸 新
はじめに
胸部大動脈瘤(thoracic aortic aneurysm:TAA)の多くは徐々に拡大して致死的な破裂を来すことから,破裂する以前での外科手術が推奨されてきた.しかし,外科手術は技術的難易度が高く,さらに体外循環などの補助手段を必要とすることから侵襲性の高い治療法であり,その適応は患者の全身状態によって制約されることも多い. 近年,大動脈瘤に対するステントグラフトを用いた血管内治療(ステントグラフト内挿術)の開発が進み,その低侵襲性が注目されている.海外では,すでに企業製造のステントグラフトが臨床応用されており,米国では腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)の約40%が本法の適応となっている.胸部大動脈瘤についても,FDA(U.S. Food and Drug Administration:米国食品医薬品局)は2005年 3 月にGore TAG thoracic endoprosthesis(W.L. Gore & Associates社製)の使用を承認した. 本邦では,2002年度より「ステントグラフト内挿術」の名称で手術手技料が保険収載され,治療法としては容認されていたが,使用するステントグラフトについては,ようやく2006年に腹部大動脈瘤の治療用としてZenith AAA endovascular graft(Cook社製)が承認された.しかし,胸部大動脈に使用できる機器はいまだ承認されておらず,限られた施設において任意に自作されている現状にある.実際には,筆者が行った全国アンケート調査によると,過去10年間にステントグラフトによる胸部大動脈瘤(非解離)治療症例数は1,000症例以上に上り,日本胸部外科学会の年次調査では,2004年において332症例が報告されている.このように,本邦では比較的早くから胸部大動脈瘤の治療手段としてステントグラフトの臨床応用が進められてきたが,使用される機器は個々の施設においてさまざまな方法で自作されたものであり,その適応や治療成績について一律に評価することはできない. 本稿では,Gore TAG thoracic endoprosthesisの米国多施設比較臨床試験および米国Clevelandクリニックで実施されたZenith TX1・TX2 TAA endovascular graft(Cook社製)の治療成績と,筆者が開発した自作システムの使用経験をもとに,胸部大動脈瘤(非解離)に対するステントグラフト内挿術の現況と将来展望について述べる.
The Zenith AAA endovascular graft: Japan's first government approved aortic stent graft
デバイス改良の歴史に立脚したZenith AAA endovascular graftの構造の妙 Robert J Hinchliffe and Krassi Ivancev
Introduction
The Zenith AAA endovascular graft (Cook, Inc.) was essentially developed in Perth, Western Australia in the mid-1990s. The system evolved from a number of home-made systems and benefited from the cumulative input of a number of experienced endovascular centres worldwide. This article reviews the use of the Zenith AAA endovascular graft, the history and evolution of the device. We also summarise some of the available results of the device, its potential limitations and areas for improvement and future development. Side Line CARS 2006 News Clipping CADを中心とした医用画像の最新研究が大阪に集結 精緻な診断・治療とQOL向上を目指すCAD中核学会を支える日本のプレゼンス
CARSにおけるCADセッションについて
金沢大学大学院医学系研究科 保健学専攻 量子医療技術学講座 真田 茂
はじめに
CARS 2006は大阪で開催された.1998年に東京で開催されて以来,日本で開催されるのは 2 度目である.1998年は小塚隆弘教授(大阪大学名誉教授 / 市立貝塚病院)と稲邑清也教授,今年は中村仁信教授と稲邑教授の尽力で成功裏に終えた.筆者自身は2003年London,2004年Chicago,2005年Berlinと,今年で 4 回目の参加であった.本稿では主としてCAD(computer-aided diagnosis)に焦点を絞ったセッションについて紹介させていただく.
内視鏡型手術ロボットシステムの開発とその応用の展開
内視鏡・血管内手術方式に新たな選択肢を与える小型ロボットシステムに期待 東京慈恵会医科大学 高次元医用画像工学研究所 服部 麻木
はじめに
近年,コンピュータやロボット技術の急速な発展により,臨床でロボットを用いて手術を行うda Vinci surgical systemやZeus surgical system(ともにIntuitive Surgical社製)といったロボット手術システムが実用化されてきた.これらのシステムのほとんどは,鏡視下手術においてトロッカーを通して挿入した硬性鏡や鉗子,メスといった器具をロボットによって把持し,通常の鏡視下手術で用いられる鉗子より自由度の高いロボット手術用の鉗子を用いることで限られた術野空間内で精密な手技を可能としている.またその対象は胸部から腹部までと,幅広い領域においてロボット手術システムを用いた手術が実施されている. われわれの研究グループでは,これらのシステムとは異なるコンセプトで2001年より内視鏡型手術ロボットシステムの開発を行ってきた.本システムのコンセプトは,軟性鏡の目(内視鏡スコープ)と,軟組織を把持し,もち上げるといった動作が可能な鉗子型の 2 本の腕(マニピュレータ)をもつロボットを,経口的に胃内へ挿入して手技を行うというものである. 本稿では,この内視鏡型手術ロボットシステムの開発内容と,その開発コンセプトを拡張して現在開発中の血管内治療用ロボットシステムについて述べる. Educational & Social Study 進化する遠隔画像診断—米国 vs 日本の動向—
Teleradiology and emerging business models for radiology in USA
米国式遠隔画像診断繁栄の理由は明確かつ多様なビジネスモデル Seong K Mun and R Craig Platenberg
Introduction
Teleradiology offers an example of how new technology can bring about new business models for radiology service. In the United States (US), the use of teleradiology has become routine within its own geographical boundaries. There are a growing number of radiology services that depend heavily on teleradiology services across the traditional jurisdictions. As teleradiology crosses traditional boundaries; physical, geographical, professional, legal and regulatory, it faces many challenges. Many more applications of teleradiology are expected due to a shortage of radiologists, uneven distribution of radiologists and increasing use of radiological imaging for diagnoses. In a large enterprise such as the US military, teleradiology will allow the creation of a virtual global diagnostic organization where diagnostic images will be redistributed following the availability of radiologists, making the hub and spoke concept obsolete. Eventually the distinction between picture archiving and communication system (PACS) and teleradiology will be blurred, and the idea of hub and spoke will evolve into a virtual organization of distributed capabilities. In the future, we will need to develop larger radiology service enterprises involving several radiology departments and teleradiology links. As the enterprise becomes more complex, there will be a need for additional information capabilities beyond current Internet. Various types of grid computing will offer new technical capabilities to build expanded radiology enterprises.
遠隔画像診断の人間ドック・検診読影への応用
精度管理された広域検診読影ネットワークが日本の癌検診を変える 株式会社イリモトメディカル 煎本 正博
はじめに
遠隔画像診断サービスが本邦に登場してからすでに10年以上が経っており,近年は大学を中心とした,NPOによる遠隔画像診断センターの設立も相次いでいる.一方,フィルムレス診断の普及により画像観察装置(ビューアー)の設置場所を問われなくなり,ネットワークインフラの向上とともに,施設内診断と遠隔画像診断の境界があいまいになりつつある.本稿では,独立放射線科医として人間ドック・検診にかかわる筆者の仕事を紹介しつつ,その遠隔画像診断化について述べる. Gain Access to NIH Grantsmanship molecular imagingに関係した米国における研究費とその分配方法—日本とのシステムの相違について— 学究的成果に結び付く米国式分配法の秘密は人の流動性の担保 Molecular Imaging Program,National Cancer Institute (NCI) Series Basics on Medical Imaging MRIの撮像原理—MR信号を用いた画像の形成— 原子核の運動から信号発生・検出の仕組みまで,MRIを構成する現象を逐次解説 名古屋大学医学部 保健学科 放射線技術科学専攻 小寺 吉衞 海外医療の現場から
米国の大学の放射線科事情—RSNA主催のClinical Trials Methodology Workshopに参加して—
Iowa大学骨軟部放射線科勤務医が実感した米国の臨床研究者不足と教育の必要性 Musculoskeletal Radiology, Department of Radiology, University of Iowa Carver College of Medicine
はじめに
2002年 4 月よりIowa大学の骨軟部放射線科のスタッフとして臨床・教育・研究に携わってきました.本稿では,Iowa大学での私の研究環境,研究内容と骨軟部放射線科フェロープログラムを簡単に紹介します.また,北米放射線学会(Radiological Society of North America: RSNA)が2006年 1 月に主催した研究者育成のためのClinical Trials Methodology Workshop1)に参加する機会を得ましたので,後半はその報告をします. All about Impact Factor
インパクトファクターをはじめとする雑誌評価指標—放射線科領域を例として—
雑誌の位置付けは平均被引用率のみでなく同領域内の多角的指標比較で評価 トムソンサイエンティフィック 宮入 暢子
はじめに
前回は,インパクトファクター(文献引用影響率)を正しく理解・活用するための基本事項として,その算出方法や本来の目的,引用データの特性,研究評価と引用データの関連について解説しました.本稿では,インパクトファクターをはじめとする雑誌評価指標について,指標開発当初の目的に即し,放射線科領域の雑誌データを例にとって解説します. |
Vol.9-No.4, 2007 バックナンバー目次
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